日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、座長:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

11:45 〜 12:00

[MAG34-10] 放射性137Csによる全球表層水循環と滞留時間の推定

*猪股 弥生1青山 道夫2 (1.金沢大学 環日本海域環境研究センター、2.筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:放射性セシウム、滞留時間、全球表層水、インベントリ、長期変動

137Csは海水中の溶存成分であり、30.17年の半減期で放射壊変することから、海水循環を評価する化学トレーサーとして有効である。海水中における137Csは、主に1950-1960年代にアメリカ・ソ連によって行われた大規模核実験、イギリス・フランスの再処理工場、1986年に生じたチェルノブイリ事故、2011年福島原子力発電所からの漏洩によるといわれている。本研究では、Historical Artificial radioactivity in Marine environment, Global2021 database (Aoyama, 2021)及びIRSN database(Pascal Baily du Bois, et al., 2020)に収録されている表層水中の137Cs濃度データ(N=56447)をもとに、137Cs濃度の時空間変動の解析を行った。全球表層水を37のBoxに分割し、各Boxの0.5年平均値、見かけの半減期、海域毎のマスバランス、インベントリを評価した。
ヨーロッパの再処理工場からの直接漏洩の影響を受けた北太平洋沿岸域・北極海以外の海域では、1970年以降137Csは指数関数的に減少していた。表層水における見かけの半減期は、8.8-38年と見積もられた。亜熱帯北太平洋及び赤道太平洋における見かけの半減期(1970-1989)は34.1年であり、1990-2011年の見かけの半減期(25.2年)よりも長いことから、大規模核実験で西部北太平洋に沈着した137Csの多くが1990年代までに赤道域を通過したものと考えられた。長い見かけの半減期はインドネシア海や南部(30-60°S)・中部(15°N-30°S)大西洋で認められ、このことから表層水は西部北太平洋から40年の時間スケールで太平洋からインド洋・大西洋に輸送されているものと考えられた。
1970年の表層水における137Csインベントリは184±26 PBqであった。このことは大規模核実験により海洋に注入された137Csの68%が10年間で海洋内部に輸送されていたことを示唆している。1980年には、再処理工場からの大西洋縁辺域への直接漏洩により、137Csインベントリは214±11 PBqに増加していた。福島原子力発電所の事故が起きた2011年には、海洋表層水の137Csインベントリは50.7±7.3 PBqと前年よりも増加しており、このうち15.5 ±3.9 PBqは福島原子力発電所からの漏洩によるものであった。