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[MAG34-P07] 六ヶ所村核燃料再処理施設沿岸海域における海産生物中のH-3、Cs-137の動態
キーワード:トリチウム水、セシウム-137、六ヶ所再処理施設、スピアマンの相関係数R、濃縮係数CR
福島第一原子力発電所(Fukushima Daiichi Nuclear Power Station: FDNPS)の廃炉作業において重要な課題の一つに、汚染水の処理が挙げられる。H-3は水の一部となるため、Advanced Liquid Processing System (ALPS) 処理による除去が困難である。そのため、2023年春以降を目途にH-3を含むALPS処理水の海洋放出が予定されている。今後、この放出による海水中のH-3濃度の変化を海産生物の線量評価に繋げるには、海洋生態系内でのH-3の動態についての理解が必要となる。そこで、本研究では先行研究が多く行われているCs-137と比較することで、H-3の動態の明確化に取り組んだ。用いたデータは、東北地方近海の北太平洋沿岸のバックグラウンドとして、青森県と岩手県沖合のH-3、Cs-137である。六ヶ所再処理工場のアクティブ試験時(2006~2008年)を除いて、海水のH-3濃度は0.052~0.20 Bq/Lで平均0.12±0.031 Bq/L、TFWT (Tissue Free Water Tritium)濃度は0.050~0.34 Bq/kg-wetで平均1.1±0.039 Bq/kg-wet、OBT (Organically Bound Tritium)濃度は0.0070~0.099 Bq/kg-wetで平均0.042±0.019 Bq/kg-wetだった。Cs-137濃度は、FDNPS事故以前(2003~2010年)の平均値で海水では0.00054~0.0027 Bq/Lで平均0.0016±0.00041 Bq/L、生物中では0.022~1.8 Bq/kg-wetで平均0.090±0.037 Bq/kg-wetだった。海産生物と海水中の濃度比である Concentration Ratio (CR)について、TFWTは全ての魚種でCRが0.34~2.4で平均0.97±0.31であり、生息環境中の海水濃度と海産生物体内の濃度がほぼ等しかった。Cs-137については、CRは46~78で平均56±22であった。このことから、H-3とCs-137は蓄積過程が異なることが示唆された。キアンコウ、シロザケ、マダラについて10回以上Cs-137とTFWTがともに検出された。そこで、この3種について相関関係を評価した。CR-TFWTとCR-Cs-137を比較すると、キアンコウ、シロザケ、マダラの3種とも、スピアマンの相関係数|R|<0.4、p>0.05であり、相関関係は認められなかった。すなわち、CRは周辺環境の海水中の放射性核種濃度を除去したものであるため、この環境条件を排除すると魚本来の生態系への移行傾向がみられ、魚体中に蓄積するCs-137濃度とTFWTの濃度は相関しないことが明らかになった。