日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI26] Data assimilation: A fundamental approach in geosciences

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中野 慎也(情報・システム研究機構 統計数理研究所)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、三好 建正(理化学研究所)、加納 将行(東北大学理学研究科)、座長:加納 将行(東北大学理学研究科)、中野 慎也(情報・システム研究機構 統計数理研究所)

09:50 〜 10:10

[MGI26-04] Numerical experiments for estimating frictional properties on an SSE fault using the adjoint method

★Invited Papers

*大谷 真紀子1亀 伸樹2加納 将行3 (1.京都大学 理学研究科、2.東京大学 地震研究所、3.東北大学 理学研究科)

キーワード:データ同化、SSE、摩擦

断層で起こる多様なすべりの理解・すべりの発展予測を目的として、断層すべりの時空間発展を模擬する数値シミュレーションが行われている。断層のすべり発展は断層の摩擦特性に強く依存するが、通常これは未知である。そのため、対象とするすべり現象の特徴を定性的に再現するよう試行錯誤的に決定されるのが常である。この問題に対して、物理モデルによる数値シミュレーションに観測データを取り入れることでより尤もらしいモデルを作成するデータ同化を取り入れる試みが行われている。データ同化によって、観測データを定量的に説明可能な、断層の摩擦特性を含む物理モデルが得られれば、この物理モデルが提供するデータ期間よりも先の時刻のすべり発展は即ちすべりの発展予測になると期待される。
 地震学分野におけるデータ同化研究は近年進んできているが、その成功は専ら地震発生後の波動伝播に関する部分であり、断層すべり発展の推定には未だ課題が多い。地震すべりは、固着した断層への定常的載荷によって蓄積した歪みを数秒から数分のすべりによって開放する現象であるが、”硬い”方程式系でありデータ同化の適用は未だ成功していない。そこで現在は、同様に断層のすべりであるが地震よりもゆっくりとした現象である余効すべりやスロースリップ(SSE)に対してデータ同化の適用が行われ、将来の地震予測に向けた知見の蓄積が行われている。本発表では、SSEに対してデータ同化手法を適用した数値実験について紹介する。
 西南日本南海トラフ沿いでは地震発生域の深部延長部でSSEが発生し、豊後水道で繰り返し発生する豊後SSEが見られる。Hirahara & Nishikiori (2019)は豊後SSEを想定し、データ同化のうち逐次同化手法の一つであるEnKF法を用いたデータ同化数値実験を行いその有効性を示した。しかしながら初期アンサンブルの設定方法が確立しておらず、また推定値が真値に近づいたのかどうかの判断が難しいなどの問題点がある。これに対してデータ同化のうちアジョイント法は、得られた時系列データを尤も良く説明する物理モデルの初期値を求める手法で、推定における挙動が理解しやすい。そこで本研究では豊後SSEにアジョイント法を適用し、数値実によってSSE断層のすべり時空間発展・摩擦特性の推定可能性を調べた。
 数値実験はH&N(2019)と同じ問題設定において実施した。観測データは地表面変位速度であり、一様な摩擦特性を持つSSEパッチを仮定したSSE断層モデルについて、断層のすべり速度・摩擦強度分布(モデル変数)と、摩擦パラメタ(モデルパラメタ)を同時に推定する。モデル変数のうち、断層すべり速度は地殻変動データの運動学的逆解析によって直接求めることができるが、断層強度の分布は現在の観測研究からは直接推定ができない未知量である。そこで本研究ではすべり速度の初期値は既知とし、その他の変数・パラメタの推定を行ったところ、断層の摩擦パラメタは摩擦強度分布の初期値とトレードオフの関係にあり、限られた期間のデータではこれを解像することができないことがわかった。本研究はこの問題を回避する、通常のアジョイント法にSSEが周期的であるという観察される特徴を拘束条件として新たに加える二段階反復法を提案した。H&N(2019)と同様に地表面変位速度をデータとした双子実験によって二段階反復法をテストしたところ、様々な初期推定値から探索を始めて、真値に近い値を推定値として得ることができた。