日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] データ駆動地球惑星科学

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、伊藤 伸一(東京大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[MGI29-P01] 機械学習を用いた東日本及び中部地方における津波堆積物の多次元地化学データの包括的解析

*島田 智久1松野 哲士1Mindaleva Diana1土屋 範芳1 (1.東北大学 環境科学研究科 )


キーワード:津波堆積物、機械学習、次元圧縮

津波ハザードマップは、数値シミュレーションによる津波浸水域の推定を主軸として行われてきたが,実際の歴史上でどのような範囲で浸水があったかは考慮されてこなかった。そこで,本研究は,過去の津波堆積物の特徴を明らかにすることで,過去の津波浸水域の確立化、及び津波ハザード地域の精緻化を進めることを目的としている.

過去の津波浸水域の指標となるのが、津波浸水域の90%を占める泥質津波堆積物である。しかし、従来の津波堆積物の判別に用いられてきた粒径や海洋微生物などの指標は、砂質津波堆積物には有効であるが、泥質津波堆積物では困難であるため、化学組成とデータ分析を用いた手法が提案されてきた.例えば、SVMといった教師あり学習によって津波堆積物の重要元素を定める手法(Kuwatani et al., (2014))や、津波堆積物の指標を階層クラスタリングなどの教師なし学習で定める手法(Watanabe et al., (2021))などが挙げられる。しかし、これらの先行研究ではサンプル採取地が東北地方を中心に特定の地域に絞られており、また、特定の元素に着目している。したがって、広範囲における泥質津波堆積物の多数の元素による集団的挙動の解明および判別手法の提案は十分でない。また、将来的には南海トラフ地震に備えるために西日本の津波堆積物も解析できる必要がある。

本研究では日本全国の地質の化学組成データを網羅した地球化学図(産総研, 2010)と、今まで蓄積された津波堆積物サンプルのデータを包括的に分析できる機械学習法を用いて、解明を試みた。サンプルとして、地球化学図における中部、関東、東北地方の陸上堆積物データと海洋底堆積物データ、東日本大震災時の泥質津波堆積物データ、および津波堆積物が複数確認されている岩手県野田村沿岸域(野田村データ)と静岡県静岡市駿河湾(静岡データ)で採取された土壌のボーリングコア試料を扱った。これらの主要元素及び一部の重金属元素などからなる17元素の濃度データを、次元圧縮法であるPCAとUMAPを用いることで、複雑な濃度分布パターンが反映された二次元の散布図に出力させ、定性的な評価を行った。

その結果、海洋底堆積物と陸上堆積物のデータが泥質津波堆積物データを介することで強い類似性を示すUMAPの結果が得られた。このことから、泥質津波堆積物を化学分析する際には陸上堆積物と強い類似性を持つサンプルが混在している可能性が高いことがわかる。したがって、津波堆積物のデータ分析に必要な泥質津波堆積物の教師データを扱う際に、陸上堆積物に類似しないデータを厳選する必要性を示唆する結果となった。また、野田村データの既に津波堆積物と認定されたデータと泥質津波堆積物データ、海洋底堆積物データが含まれるクラスターがUMAPにて生成され、津波堆積物と認定されていない野田村データが一部このクラスターに含まれていた。このことから津波堆積物の可能性が高いデータを確認できたことがわかる。また、全ての静岡データは陸上堆積物クラスター内に生成されたため、後背地を考慮できる元素を新しく導入する必要が明らかとなった。