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[MGI30-P05] 分子動力学シミュレーションで探るダストモノマー間相互作用: JKR理論の拡張
キーワード:微惑星形成、ダスト成長過程、分子動力学シミュレーション
原始惑星系円盤中のダストは惑星の材料であり、初期のダストはμm以下のサイズの球(モノマー)であり、モノマーは合体して集積体 (アグリゲイト)を形成すると考えられている。cm 以下のダスト成長は分子間力が支配的であり、km以降の微惑星から惑星への進化には重力が重要であると考えられている。しかし中間サイズダストではどちらの力も支配的ではなく、その成長過程は未解明であり、直接合体成長の可能性や何らかの不安定性による成長の可能性が研究されている。直接合体成長に関して、ダスト衝突の物理を知ることは重要であり、衝突した際の合体確率やダスト破壊臨界速度、衝突合体後のダストサイズ、密度、破片数などが数値シミュレーションにより調べられている(e.g., Wada et al. 2008,2013; Suyama et al. 2008,2012)。数値シミュレーションは、接触しているモノマー間に働く相互作用の計算にJKR理論と呼ばれる接触理論を用いている。しかし、シミュレーション結果と実験結果の違いが報告されており、モノマーやアグリゲイトの衝突実験では、跳ね返り限界速度が理論値より大きいことやその限界速度に温度依存性が存在していることが指摘されている (e.g., Poppe et al. 2000, Blum & Wurm 2000, Wada et al. 2008)。この数値計算と室内実験の差異は、ダスト衝突過程中に起こる分子運動へのエネルギー変換が原因であることが指摘されている (Krijt et al. 2013; Tanaka et al. 2015)。JKR 理論では分子運動によるエネルギー変換などのミクロな物理を考慮しておらず、ミクロの物理を取り入れたJKR 理論の拡張が必要である。物理現象を分子レベルにまで還元して調べる方法として、分子動力学シミュレーションが有効である。分子動力学シミュレーションは、物体を多数の分子で構成して分子のN体問題を解く方法である。粒子衝突過程を調べた研究で分子動力学シミュレーションを用いた先行研究はいくつあるが、衝突速度が過大であったりサイズが過小であるなど、モデルパラメータは原始惑星系円盤内の範囲外である(e.g., Takato & Sen, 2014; Takato et al. 2015; Nietiadi et al. 2017)。また、これらの先行研究は特定温度における正面衝突を取り扱っており、衝突過程の温度依存性は未だ調べられていない。
本研究は分子動力学シミュレーションを用いてモノマー衝突を再現することにより、モノマー間相互作用を明らかにする。我々は、モノマーのサイズや衝突速度、温度といった衝突条件や環境を変化させて正面衝突を再現し、衝突結果の反発係数を調べた。その結果、サイズ依存性ではサイズが大きいほど反発係数が増加し、衝突速度依存性では~50 m/sで反発係数にピークが現れることが分かった。高速度衝突ではモノマーに変形が生じたことが確認でき、この可塑性により接触部分での反発力が弱まり反発係数が減少すると考えられる。エネルギーについて、バルクの運動エネルギーから分子運動エネルギーやポテンシャルエネルギーへの変化量が増加することが確認できた。温度依存性では、高温ほど反発係数が下がることが分かった。
次に、我々はJKR理論の拡張を試みた。方法について、JKR理論の相互作用に散逸力を加えて、拡張モデルがMD計算を再現できるのかについて検証を行った。散逸力はモノマー間の接触半径と相対速度に比例する粘性抵抗であることが示唆されているが (Brilliantov et al. 1996, 2007, Krijt et al. 2013)、その正当性は確認されていない。我々は散逸力が依存する接触半径と相対速度の指数を変化させ、どの散逸力モデルがMD計算をよく再現するのか調べた。結果、相対速度の3乗と接触半径の3/2乗に比例する散逸力モデルがMD計算を再現できることが分かった。しかし、衝突速度が大きくなるほどモノマーの変形によるエネルギー散逸が強く、散逸力モデルとの差異が大きくなった。本発表は、以上の結果を紹介する。
本研究は分子動力学シミュレーションを用いてモノマー衝突を再現することにより、モノマー間相互作用を明らかにする。我々は、モノマーのサイズや衝突速度、温度といった衝突条件や環境を変化させて正面衝突を再現し、衝突結果の反発係数を調べた。その結果、サイズ依存性ではサイズが大きいほど反発係数が増加し、衝突速度依存性では~50 m/sで反発係数にピークが現れることが分かった。高速度衝突ではモノマーに変形が生じたことが確認でき、この可塑性により接触部分での反発力が弱まり反発係数が減少すると考えられる。エネルギーについて、バルクの運動エネルギーから分子運動エネルギーやポテンシャルエネルギーへの変化量が増加することが確認できた。温度依存性では、高温ほど反発係数が下がることが分かった。
次に、我々はJKR理論の拡張を試みた。方法について、JKR理論の相互作用に散逸力を加えて、拡張モデルがMD計算を再現できるのかについて検証を行った。散逸力はモノマー間の接触半径と相対速度に比例する粘性抵抗であることが示唆されているが (Brilliantov et al. 1996, 2007, Krijt et al. 2013)、その正当性は確認されていない。我々は散逸力が依存する接触半径と相対速度の指数を変化させ、どの散逸力モデルがMD計算をよく再現するのか調べた。結果、相対速度の3乗と接触半径の3/2乗に比例する散逸力モデルがMD計算を再現できることが分かった。しかし、衝突速度が大きくなるほどモノマーの変形によるエネルギー散逸が強く、散逸力モデルとの差異が大きくなった。本発表は、以上の結果を紹介する。