日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI30] 計算科学が拓く宇宙の構造形成・進化から惑星表層環境変動まで

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (25) (オンラインポスター)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、小久保 英一郎(自然科学研究機構国立天文台科学研究部)、小河 正基

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MGI30-P08] 金星大気の全球非静力学計算:鉛直対流の影響

*樫村 博基1八代 尚2、西澤 誠也3、富田 浩文3高木 征弘4杉本 憲彦5小郷原 一智4黒田 剛史6中島 健介7石渡 正樹8高橋 芳幸1林 祥介1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.国立環境研究所地球環境研究センター、3.理化学研究所計算科学研究センター、4.京都産業大学理学部、5.慶應義塾大学法学部日吉物理学教室、6.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、7.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、8.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:金星大気、非静力学、鉛直対流、数値実験

金星は全球が濃硫酸の分厚い雲で覆われており、その大気の循環構造や内在する諸現象の全貌は明らかになっていない。しかし近年、金星探査機「あかつき」の観測によって、惑星規模の弓状構造 (Fukuhara et al., 2017) や筋状構造 (Kashimura et al., 2019)、前線のような構造、数百km程度の小規模な渦や波 (Limaye et al., 2018) など様々な大気現象が発見されている。また、これらの現象を大気大循環モデルで再現し、そのメカニズムに迫る試みも活発に行われている。なかでも、地球シミュレータに最適化された大気大循環モデル「AFES」(Ohfuchi et al., 2004; Enomoto et al., 2008) をもとに開発されたAFES-Venus (Sugimoto et al., 2014) によって、高解像度のシミュレーションが実現され、様々な構造が解析されてきた (e.g., Kashimura et al., 2019; Takagi et al., 2018; Sugimoto et al., 2022; Takagi et al., 2022)。しかし、AFESは静力学平衡を仮定した大気モデルであり、水平数十km規模以下の現象には適しておらず、雲層の対流活動を陽に扱うこともできない。雲層の対流活動は、それ自身が興味深いだけでなく、対流の結果として生じる中立あるいは低安定度の層が、惑星規模の弓状構造や筋状構造の成因に深く関わっており、金星大気大循環の特徴を理解する上で非常に重要だと考えられる。これまでに、非静力学の領域モデルによって雲層の対流活動やそこから生じる重力波などが研究されてはいる (e.g., Baker et al., 1998; Imamura et al., 2014; Yamamoto 2014, Lefèvre et al., 2017) が、計算領域が限定されるがゆえに、大規模現象に対する影響を調べることは出来ていない。

我々は、雲層の対流活動を陽に表現した金星大気の全球シミュレーションを実現すべく、非静力学の金星大気大循環モデルの開発を進めている。大気運動や座標系を担う力学コアには「SCALE-GM」(http://r-ccs-climate.riken.jp/scale/)を利用している。SCALE-GMは、完全圧縮方程式系を正二十面体準一様格子 (Tomita et al., 2001, 2002) 上で有限体積法で解く力学コアである。これまでに、AFES-Venusで用いられている太陽加熱・ニュートン冷却 (Tomasko et al., 1980; Crisp et al., 1986; Sugimoto et al., 2014) を導入し、東西一様な加熱冷却強制の下で計算を試行し、AFES-Venusと同様な平均東西風分布や惑星規模筋状構造が表現されることを確認してきた (樫村他, 2021)。ただし、この加熱冷却強制は、(中立には近いものの、対流運動による静的不安定解消後の) 静的安定な場へと近づけるものであり、雲層付近の鉛直対流を直接駆動しない設定であった。

そこで本研究では、静的不安定な場へと近づける加熱冷却強制を与えることで、鉛直対流が直接駆動される全球計算を試みた。具体的には、高度55–60 kmにおける安定度強制 (ニュートン冷却の基準温度場の安定度) を、従来の0.1 K/kmから、負の値 (–1.0 K/kmなど) に変更し、太陽加熱の日変化成分も加えた。計算は、水平格子間隔約52 km (glevel 7) と26 km (glevel 8) の2つの解像度で行った。

計算の結果、両解像度で夜面の領域で鉛直対流が生じることが確認された。ただし、表現された鉛直対流の水平スケールはglevel 7で500 km程度、glevel 8で200 km程度であり、観測されている対流スケールよりも大きく、解像度依存である。すなわち、対流の正確な表現にはより高解像度での計算が必要となる。一方、我々の火星大気全球非静力学計算の経験 (解像度不足により鉛直対流の水平スケールが過大な場合、熱や運動量の鉛直フラックスは過小評価となった) から、対流を陽に表現することによる大規模場への効果は、今回の計算結果からでもある程度評価できると考えている。講演では、平均東西風分布をはじめとした基本的な循環構造や温度構造について紹介し、議論する予定である。