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[MIS02-P03] 放散虫化石からみた後期中新世の地球寒冷化に伴う日本海古海洋環境・生態系変化
キーワード:後期中新世、放散虫化石群集、日本海
後期中新世地球寒冷化 (LMGC) では、モンスーンや海洋循環の変化など全球的な環境変化のほか、生態系の変化も報告されている。当時北太平洋と深層で接続していた日本海は、太平洋の海洋循環や東アジアモンスーンの影響を受け、LMGC期前後の主要な陸域-海洋環境変化が堆積相や化石群集に記録されている。日本海に固有で主要な放散虫種であったCycladophora nakasekoiはLMGC期に絶滅し、同時期に珪藻が増加した。このとき堆積相は放散虫に富む暗色層から有機物に乏しい珪藻軟泥へと変化し、LMGC期に日本海の表層生産と底層水の溶存酸素濃度が上昇したことが示唆される。また、各水塊の指標となる放散虫化石群集に基づき、日本海への太平洋中央水 (PCW) の流入増加や、冬モンスーン強化に伴う亜寒帯前線の南下が示唆された (Matsuzaki et al., 2022) 。しかしながら、10万年スケールでの変動は議論されたものの、海水準変動など当時の気候変動に卓越する4万年周期はサンプリング解像度の問題から検討できていない。特にLMGCの環境に移行し放散虫群集が変化するタイミングにおいて主要な軌道要素周期が検出されておらず、群集変化の要因は未解明であった。そこで本研究では、国際深海科学掘削計画 (IODP) 第346次航海において日本海中央部の掘削サイトU1425で掘削されたコア試料を用いて、万年スケールの放散虫化石群集解析を行い、その卓越周期から群集変化をもたらした古海洋環境変化の復元を試みた。その結果、Matsuzaki et al. (2022) で検出されなかった4万年周期の変動が多くの放散虫種のabsolute abundanceに検出された。太平洋中央水 (PCW) の指標となるTricolocapsa papillosaに卓越した4万年周期は、底生有孔虫の酸素同位体比にも卓越し (Holbourn et al., 2018) 、南極氷床量変動が太平洋子午面循環 (PMOC) の強度を制御し、⽇本海へのPCW流⼊に影響していた可能性を⽰唆する。亜寒帯表層水の指標となるCycladophora sphaerisの変動には4万年周期が卓越した。黄土高原において冬モンスーン強度の指標となる石英粒径から、少なくとも7 Maごろの冬モンスーンの変動は4万年周期が強く検出されることが示されており (Sun et al., 2010) 、本研究で扱った7.6〜7.3 Maの期間においても4万年周期で変動する冬モンスーンにより日本海への亜寒帯表層水の流入が制御された可能性がある。⼀⽅で、絶滅した⽇本海固有種のC. nakasekoiは、T. papillosaと同時期に日本海での堆積フラックスが減少するが、T. papillosaに卓越した4万年周期は弱く、10万年周期が卓越した。10万年周期は同時期の夏モンスーンに卓越することから(Nie et al., 2017) 、C. nakasekoiはPCWに直接関係したのではなく、夏モンスーンに関係して繁栄した可能性がある。LMGCに伴いPCW流入、夏モンスーンともに弱化し、冬モンスーンが強化した中で、日本海の環境は大きく変化し、C. nakasekoiは絶滅したと考えられる。