日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] 地球表層における粒子重力流のダイナミクス

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、志水 宏行(砂防・地すべり技術センター)、田邊 章洋(防災科学技術研究所)、座長:酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、田邊 章洋(防災科学技術研究所)

10:00 〜 10:15

[MIS07-04] 畳み込みニューラルネットワークを用いた2次元混濁流逆解析モデルの実験的検証

*藤島 誠也1 (1.京都大学大学院理学研究科)


キーワード:混濁流、タービダイト、逆解析、機械学習、畳み込みニューラルネットワーク

深海底では,乱流によって浮遊砂を支持し周囲流体との密度差を駆動力として流れ下る混濁流が間欠的に発生している.現世の海底観測から,混濁流は津波によって発生しうることが知られている.すなわち,津波起源混濁流発生時の水理条件(流れの厚さ・堆積物濃度など)が津波の規模を反映するならば,混濁流堆積物(タービダイト)は過去の巨大津波の規模推定への手がかりとなる可能性があるだろう.タービダイトから混濁流発生時の初期条件を推定する手法としては,1次元順計算モデルを利用した深層学習ニューラルネットワーク(DNN)逆解析モデルが既存研究により確立されている.しかし,実際に津波起源混濁流が堆積している日本海溝などの地形は複雑である.そのような海域での堆積作用を再現するためには,水平2次元順計算モデルを用いた逆解析モデルを構築する必要があるだろう.そこで,本研究では順計算を行うモデルとして混濁流の2次元4方程式モデルを採用し,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた逆解析モデルを構築した.
さらに,水槽実験により本研究の逆解析モデルの性能を検証した.混濁流モデルの実装としては数値モデル turb2d を利用した.本研究のCNN 逆解析モデルの構築手続きは以下の通りである.まず,様々な初期条件のもとで順計算を繰り返し,訓練データを生成する.次に,生成した訓練データを用いて初期条件と堆積物の特徴との関係をCNNに学習させ,堆積物から混濁流の水理条件を推定する逆解析モデルを構築した.訓練データと独立に生成した人工のテストデータによりモデルの性能評価を行ったところ,本研究の逆解析モデルは高い精度で堆積物から混濁流の初期条件を推定できることが示された.つぎに,実験水槽 (2.2 × 4.5 × 1.5 m) 内で混濁流を発生させ,その実験堆積物に対して本研究の逆解析モデルを適用した.さらに,モデルによって推定された初期条件を用いて順計算を行い,層平均流速・層平均堆積物濃度・流れの厚さ・流れの継続時間・堆積物の各粒径階ごとの面積あたり堆積量について,実際の測定値と予測値の比較を行った.その結果,各粒径階の面積あたり堆積量の分布は測定値と逆解析結果が良く一致していた.また,混濁流の水理条件に関しては,流れの厚さは測定値と逆解析結果の間の相対誤差が −86%以下であり,比較的よい推定がなされていた.一方,堆積物濃度については誤差が大きく,逆解析結果は測定値の143倍の値を示した.堆積物の特徴が再現できたことは,本研究のモデルの逆解析自体は成功したことを意味する.それにも関わらず,混濁流の水理条件の推定値に大きな誤差がみられたことは,順計算モデルの現象の再現性に問題がある可能性を示唆している.今後は,実際の混濁流を再現できるように順計算モデルの改良を行う必要があるだろう.