日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:30 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:草原 和弥(海洋研究開発機構)、箕輪 昌紘(北海道大学・低温科学研究所)、野木 義史(国立極地研究所)、関 宰(北海道大学低温科学研究所)、座長:関 宰(北海道大学低温科学研究所)

09:15 〜 09:30

[MIS08-02] 約40万年前の温暖期における南大洋の海洋前線と海水温の復元

*松井 浩紀1、Isabelle Billy2、Olivier Ther2、Xavier Crosta2堀川 恵司3池原 実4 (1.秋田大学大学院 国際資源学研究科、2.フランス・ボルドー大学、3.富山大学学術研究部理学系、4.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:MIS 11、有孔虫

南大洋を特徴付ける南極周極流は,複数の海洋前線(亜南極前線や南極前線など)から構成される.海洋前線は水温や塩分が異なる水塊の境界であり,近年の温暖化に対して南下する傾向が指摘されている.一方,約40万年前の温暖期(間氷期)である海洋酸素同位体ステージ(MIS)11について,全球平均気温が産業革命前+2度の可能性があり,当時の気候状態の解明が求められている.そこで本研究では,MIS 11を記録した南大洋インド洋区の海底堆積物を対象として,浮遊性有孔虫化石から海洋前線の位置や海水温を復元する.
試料採取地点は南大洋インド洋区クロゼ諸島周辺(MD19-3578地点: 南緯46度6分,東経49度8分)であり,現在の亜南極前線よりも高緯度側に位置している.岩相は主に珪質軟泥であるが,一部に石灰質軟泥が認められる.予察的な年代モデルから,その石灰質軟泥がMIS 11に相当すると考えられる.
MD19-3578コアのMIS 11区間の浮遊性有孔虫化石群集を検討した結果,温帯種であるGlobigerina bulloidesが最大で51%産出した.コアトップ試料のG. bulloides産出割合は26%であり,現代よりもMIS 11のピークが温暖であることを示唆する.また,既存の表層堆積物データベースに基づくと,G. bulloidesの産出割合は亜南極前線よりも低緯度側で増加する.すなわちMIS 11のピークにおいて亜南極前線が南下し,試料地点が同前線よりも低緯度側に位置したと考えられる.
さらに,海水温の指標である浮遊性有孔虫化石のマグネシウム/カルシウム(Mg/Ca)比を分析した.その結果,G. bulloidesのMg/Ca比は1.68から1.90 mmol/molであり,南大洋の種固有の換算式に適用すると約7.9℃から9.8℃に相当した.コアトップ試料のG. bulloidesのMg/Ca比水温は約5.0℃であり,現代よりもMIS 11の復元水温が有意に高い値を示した.以上の結果から,MIS 11において南大洋インド洋区の亜南極前線が南下し,試料地点の海水温が現代よりも約3℃から4℃上昇した可能性が示された.