日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 生物地球化学

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、福澤 加里部(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

14:00 〜 14:15

[MIS09-02] 河川水中微生物の細胞サイズと溶存有機物分解の関係

*高木 悠司1鈴木 光次1,2山下 洋平1,2 (1.北海道大学 大学院環境科学院、2.北海道大学 地球環境科学研究院)


キーワード:溶存有機物、生物分解性、光学特性、サイズ分画、流域土地利用形態、忠別川

河川から大気へのCO2フラックスは地球表層における炭素循環において無視できないほど大きいとされている。現時点でのフラックスを正しく見積り、その変化の将来予測に繋げるには、水域内での有機物分解の制御要因を理解する事が重要となる。河川における有機物の50%以上は溶存有機物(Dissolved organic matter, DOM)であり、従属栄養微生物により分解される。近年のいくつかの研究により、細胞サイズが大きい微生物群集によって、難分解性のDOMが選択的に分解されている可能性が示唆された。しかし、微生物の細胞サイズの違いによるDOM分解の異同を評価した培養実験は極めて限られており、河川環境における培養実験はない。そこで、本研究では微生物の細胞サイズの違いにより河川中の難分解性DOMが分解されるかを評価することを目的とした。
培養実験に用いるDOM基質は2022年8月16日に忠別川集水域における森林中の小支流、ダム湖、渓流および水田地帯の用水路から採取した。採水日は降水量が多く、ダム湖を除くすべての採水地点は高流量であった。DOMは低分子なものが難分解であると考えられているため、採取した水試料はそれぞれ0.22 μmの濾紙を用いて濾過後、分子量3000の濾過膜を用いた限外濾過により高分子DOM画分と低分子DOM画分に分けた。また、接種源として忠別川中流の河川水を採取し、1.0 μmおよび5.0 μmの濾紙を用いて、河川水中微生物の細胞サイズを2種に分けた。得られた高分子および低分子のDOM基質と2種の接種源を9:1の比で混合し、忠別川中流河川水温(20℃)、暗所条件下で30日間培養した。また、接種源を加えない対照区も同じ条件で培養した。培養前後の試料は0.22 μmの濾紙を用いて濾過し、溶存有機炭素(DOC)濃度を測定して有機物分解量を評価した。また、三次元励起-蛍光スペクトル分析および紫外-可視吸収スペクトル分析を行い、有機物の質の変化を評価した。さらに、未濾過試料をパラホルムアルデヒドで固定し、SYBR Goldで染色したのちにフローサイトメトリーにより細菌数を測定した。
実験の結果、すべての基質の低分子区において、DOC濃度は減少したが、対照区、<1.0 µm区および<5.0 µm区の間で顕著な違いはなかった。また、微生物の増加が微小であった。このことから、DOC濃度の減少は微生物分解によるものではなく、非生物要因により除去されたことが考えられた。一方、すべての基質の高分子区では0.22 µm未満の対照区においても、<1.0 µm区および<5.0 µm区と同程度にDOC濃度が減少し、対照区および試験区において微生物が増加した。このことから、細胞サイズが大きい微生物群集は河川中の高分子DOM分解に寄与せず、高分子DOMの大部分は0.22 µm未満の微生物により分解されたことが示唆された。実験の結果、忠別川においては、サイズが大きい微生物群集による難分解性DOMの選択的分解は起こらず、サイズが小さい微生物群集がDOM分解に主要な役割を果たしていることが示唆された。