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[MIS09-03] 湖深水層における高分子溶存有機物の隠れた循環の可能性
キーワード:水圏環境、溶存有機物、分子サイズ、琵琶湖、微生物
深い湖の水体の大部分を占める深水層は、酸素消費や栄養塩再生など重要な生態系機能を持つ場であり、深水層における物質循環のメカニズム解明が重要である。琵琶湖の深水層では、沈降粒子等も含めたトータルの無機化の中で、準易分解性の溶存有機物(DOM)の分解が大きな寄与割合を占める(成層期の濃度減少から計算した分解フラックス推定:Kim et al. 2006, L&O)。しかし、この推定は、見かけ上の分解フラックス(総分解フラックス-生産フラックス)であり、成層期深水層で生産されたDOMが分解される分は考慮されておらず、まだ過小評価の可能性がある。
近年、サイズ排除クロマトグラフ-全有機炭素計(SEC-TOC:Shimotori et al. 2016, L&O Meth.)の開発と応用により、湖水中のDOMは、高分子DOM(重量平均分子量が100kDa程度)と低分子DOM(同2kDa程度)という二画分の混合物であると分かってきた。我々のグループは過去数年間で、琵琶湖表水層湖水等を用いた有機物生分解実験(20℃・暗所)を進めており、高分子DOMの分解速度は比較的速く、濃度が数十日程度で検出限界以下になる結果を得てきた。一方で、琵琶湖湖水の月別採水・分析からは、成層期(春~秋)の深水層の高分子DOM濃度は概ね一定だった。
これらの観測結果を説明できる仮説として、①深水層が低温(7~9℃)で有機物分解速度が遅い、②深水層で高分子DOMの生産と分解が釣り合って濃度が見かけ上で保たれている、が考えられる。本研究は、上記の仮説の妥当性を評価して、湖深水層における高分子DOMの動態を解明することを目的とし、琵琶湖湖水のフィールド調査と有機物生分解実験を組合せた研究を実施した。
フィールド調査では、琵琶湖北湖沖合(今津沖中央17B地点)の水深60mにおいて、2020年3月~12月にかけて天然深水層湖水を毎月採水・濾過した。有機物生分解実験は、2020年3月(循環期)に採取した湖水を元試料として実施した。9℃(2020年の深水層現場水温)および20℃の暗所で振盪し、水温の影響を評価した。試料の採取・濾過は、1, 5, 9, 15, 29, 65, 133, 191, 251日目に実施し、29~251日目は、それぞれ4, 5, 7, 9, 11月(成層期)の湖水採水とほぼ同時期とした。沈降粒子等の有機物供給の影響を、9℃実験(ボトル閉じ込めのため有機物供給無し)と深水層天然湖水(沈降粒子等の有機物供給有り)の比較から評価した。濾過試料はSEC-TOCで分析し、分子サイズ別に溶存有機炭素(DOC:DOMの代理指標)濃度を定量した。生分解実験および深水層天然湖水の両方について、それぞれの高分子DOM濃度の時系列データから、見かけの分解速度を算出した。
高分子DOMの見かけの分解速度は、20℃実験>9℃実験>深水層天然湖水の順で速かった。琵琶湖深水層で一定濃度の高分子DOMが存続するメカニズムとして、仮説①の低温環境だけでは説明できず、仮説②の生産と分解の釣り合いも重要であることを、この結果は示す。湖水中の高分子DOMの生分解速度の推定式を作成し、高分子DOMの総分解フラックス(=生産フラックス+見かけ上の分解フラックス)を見積もったところ、見かけ上の分解フラックスの7倍近い値となった。つまり、深水層に供給された有機物(沈降粒子等)から高分子DOMが新たに生産され、数十日スケールで分解されるプロセス(=高分子DOMの隠れた循環)が重要である可能性が見出された。さらに、推定した高分子DOM生産フラックスは、月々変動が深水層の酸素消費速度と正の相関を示したことから、湖深水層の重要な生物地球化学プロセスであることが示唆される。
近年、サイズ排除クロマトグラフ-全有機炭素計(SEC-TOC:Shimotori et al. 2016, L&O Meth.)の開発と応用により、湖水中のDOMは、高分子DOM(重量平均分子量が100kDa程度)と低分子DOM(同2kDa程度)という二画分の混合物であると分かってきた。我々のグループは過去数年間で、琵琶湖表水層湖水等を用いた有機物生分解実験(20℃・暗所)を進めており、高分子DOMの分解速度は比較的速く、濃度が数十日程度で検出限界以下になる結果を得てきた。一方で、琵琶湖湖水の月別採水・分析からは、成層期(春~秋)の深水層の高分子DOM濃度は概ね一定だった。
これらの観測結果を説明できる仮説として、①深水層が低温(7~9℃)で有機物分解速度が遅い、②深水層で高分子DOMの生産と分解が釣り合って濃度が見かけ上で保たれている、が考えられる。本研究は、上記の仮説の妥当性を評価して、湖深水層における高分子DOMの動態を解明することを目的とし、琵琶湖湖水のフィールド調査と有機物生分解実験を組合せた研究を実施した。
フィールド調査では、琵琶湖北湖沖合(今津沖中央17B地点)の水深60mにおいて、2020年3月~12月にかけて天然深水層湖水を毎月採水・濾過した。有機物生分解実験は、2020年3月(循環期)に採取した湖水を元試料として実施した。9℃(2020年の深水層現場水温)および20℃の暗所で振盪し、水温の影響を評価した。試料の採取・濾過は、1, 5, 9, 15, 29, 65, 133, 191, 251日目に実施し、29~251日目は、それぞれ4, 5, 7, 9, 11月(成層期)の湖水採水とほぼ同時期とした。沈降粒子等の有機物供給の影響を、9℃実験(ボトル閉じ込めのため有機物供給無し)と深水層天然湖水(沈降粒子等の有機物供給有り)の比較から評価した。濾過試料はSEC-TOCで分析し、分子サイズ別に溶存有機炭素(DOC:DOMの代理指標)濃度を定量した。生分解実験および深水層天然湖水の両方について、それぞれの高分子DOM濃度の時系列データから、見かけの分解速度を算出した。
高分子DOMの見かけの分解速度は、20℃実験>9℃実験>深水層天然湖水の順で速かった。琵琶湖深水層で一定濃度の高分子DOMが存続するメカニズムとして、仮説①の低温環境だけでは説明できず、仮説②の生産と分解の釣り合いも重要であることを、この結果は示す。湖水中の高分子DOMの生分解速度の推定式を作成し、高分子DOMの総分解フラックス(=生産フラックス+見かけ上の分解フラックス)を見積もったところ、見かけ上の分解フラックスの7倍近い値となった。つまり、深水層に供給された有機物(沈降粒子等)から高分子DOMが新たに生産され、数十日スケールで分解されるプロセス(=高分子DOMの隠れた循環)が重要である可能性が見出された。さらに、推定した高分子DOM生産フラックスは、月々変動が深水層の酸素消費速度と正の相関を示したことから、湖深水層の重要な生物地球化学プロセスであることが示唆される。