日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 生物地球化学

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、福澤 加里部(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

14:45 〜 15:00

[MIS09-05] 古代地球の陸域表層における団粒形成プロセスの解明に関する研究

井原 崚貴1、*森 也寸志1 (1.岡山大学大学院環境生命科学研究科)

キーワード:土壌団粒、微生物活性、保水性

現在の地球上の土壌の多くは,団粒構造を持つことで透水性と保水性を両立し,多くの生命を支えている.これはシルル紀以降に陸上に維管束植物が現れたことで,植物自身や微生物との共同により,風化を促進し,有機物を蓄積した影響が大きかったと考えられている.しかし,維管束植物が陸上に根を張り,生活するには,それ以前に土壌に水が蓄えられていること,土壌にある程度の通気性があり,植物の根および植物と共生する微生物が土壌内で十分な呼吸ができることが必要であったはずである.すなわち,維管束植物が上陸する以前から何らかの土壌構造が形成されていた可能性がある.陸上に維管束植物が現れる以前からすでに微生物や非維管束植物が上陸し,生物クラストとよばれるコロニーを形成していたことが推測されており,これが陸域への最初の有機物添加と団粒形成を引き起こしていた可能性がある.そこで,本研究では,古代陸域表層への最初期の有機物添加によって団粒は形成されるのか,また,形成された団粒は表層の物理性を改善させうるものであったのか,を調べること目的に,2つの室内実験を行った.1つ目では,古代陸域表層の生物クラスト下を想定した未風化土壌に表層から栄養豊富な有機物が添加されたときの微生物活性と形成される団粒量から,微生物による団粒形成を調べた(実験1).そして,2つ目では,表層の風化が進み粘土割合が増えていったときに,有機物と粘土割合が微生物による団粒形成に及ぼす影響を調べた(実験2).
 実験1の結果,添加された有機物量が増えるほど,土壌試料のFDA活性およびMWDが増加し,微生物活動による団粒形成が起こることが示された.ただし,そのとき形成された団粒はマクロ団粒とよばれる保水には寄与しないものであった.従って,生物クラストから添加される有機物を用いて微生物が代謝を行うことで団粒が形成されるが,保水性は発揮しないため,この時点ではまだ維管束植物は上陸できないと推測された.
 実験2の結果,土壌の風化度合いが変化し,粘土分が増加したとき,形成された団粒は,粘土を5 %含むものでは保水性の向上が見られた.また,粘土5 %では全体的に透水性が低下したものの,有機物を1 %含んでいると比較的高い透水性を示した.粘土が5 %ある状態で有機物を介した団粒形成が起こると,マクロ団粒だけではなく,保水性に寄与するミクロ団粒の形成が起こることが示唆され,初期団粒の形成後に安定した団粒へと変化していく様子が推察された.