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[MIS09-06] 1999年と2020年における四万十川流域渓流水質の比較
キーワード:硝酸イオン、硫酸イオン、渓流水質、カルシウムイオン
森林生態系の渓流水質は、大気汚染物質や気候変動などの影響を受けることが予想される。長期的な変動を明らかにするためには、ある地域において多点調査を実施し、しばらくしてから同じ調査地点で水質を比較するという手法がある。この方法は地域内で水質の経年変化に差がみられるかどうかを評価する際に有効である。本研究では、四万十川流域92地点において1999年と2020年の夏季および2000年と2021年の冬季の渓流水質を比較した。その結果、2つの時期の渓流水質は高い相関関係が認められ、20年経過しても水質はおおむね安定していた。水質別に平均値を比較すると、電気伝導度(EC)は2020年夏季では1999年夏季から10%低下した。カルシウム、マグネシウム、硝酸イオン濃度はECと同じ程度の減少率(8.7~10.3%)であったのに対して、塩化物イオン、硫酸イオン濃度の減少率(22.5~24.8%)は大きかった。2021年冬季では、ECは2000年冬季に比べて4.3%増加した。カルシウム、マグネシウムイオン濃度はECよりも増加率が大きかった(17.5~17.7%)。塩化物イオンは10.8%減少し、硝酸イオンは55.9%減少した。これらの結果より、20年後の変化として、塩化物イオン濃度は夏冬ともに減少すること、硝酸イオン濃度は冬季にのみ顕著に減少すること、硫酸イオン濃度は夏季にのみ減少することが明らかになった。冬季における硝酸イオン濃度の低下にはいくつかの要因が寄与する。ひとつは、2000年冬季は平年よりも降水量が多かったため土壌表層の硝酸イオンが流出しやすい条件であった可能性がある。また、冬季における植物による吸収や微生物による消費が高まった可能性がある。生物による窒素要求の高まりは、長期的な大気からの窒素供給の低下や、大気中の二酸化炭素濃度の増加などの影響を考慮する必要がある。詳しいメカニズムは明らかでないが、冬季における硝酸イオン濃度の低下が地域全体で認められることから、広域的な要因によって濃度低下が引き起こされていると推察された。