日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 生物地球化学

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (18) (オンラインポスター)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS09-P01] 外洋堆積物への「ブルーカーボン」貯留の定量的評価に向けて

*宮島 利宏1、堀 正和2、浜口 昌巳3 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.水産研究・教育機構 水産資源研究所、3.福井県立大学 海洋生物資源学部)

キーワード:浅海域植生帯、炭素隔離、外洋性堆積物、ブルーカーボン、環境DNA

海洋堆積物はグローバルな表層炭素循環の中でいわば最大の終着地であり、年間0.05〜0.13ペタグラムの有機炭素(OC)が海洋堆積物への永久的埋没という形で生物地球化学的循環を離脱する。堆積物中に含まれるOCのほとんどは水柱の有光層で植物プランクトンが生産した一次生産物に由来すると考えられているが、沿岸及び陸域での大型植物による一次生産物も海域に大量に移出されており、特に大陸縁辺部の海洋堆積物には大型植物由来のOCが有意に含まれていると考えられる。海草藻場や大型藻類群落、マングローブ等の浅海域植生帯により生産されるOC(総称して「ブルーカーボン」と呼ばれる)のうちデトリタス性OCとして海域に流出する炭素量は膨大であり、外洋堆積物における炭素貯留だけでなく、外洋域の食物網における炭素源・エネルギー源としても重要な意義を持っている。しかしながらブルーカーボン(BC)が海域に流出して最終的に堆積物に貯留されるまでの経路やフラックスは定量的に解明されているわけではない。このため現状では浅海域植生帯が有する炭素隔離による気候変動緩和という生態系サービスを包括的に評価するための情報が不足している。

浅海域植生帯から移出されて外洋域に貯留されるBCの経路としては何通りか考えられているが、発表者らはそのうちで、粒子状有機物として外洋に流出した後、沈降して外洋表層堆積物中に長期貯留されるBC量の定量評価に向けた研究を推進している。前々回のJpGUでは、沖縄トラフ周辺の表層堆積物に浅海域植生帯由来のBCが到達し残留しているしていることを立証するために、定量的PCR法により植物種ごとにDNA断片の残留量を評価することを試みた事例研究について報告した(JpGU 2021 C001103)。外洋堆積物中における植物DNAの出現状況は黒潮の流路によって特徴付けられており、暖海性海草やマングローブなど亜熱帯沿岸域特有の植物種に由来するDNAが黒潮の南側にあたる海域の堆積物からのみ検出される一方、黒潮の北側の海域には、主として中国沿岸の揚子江河口域や渤海湾等から流れ藻として流出したと推定される大型藻類のDNAが広く分布していた。

こうした知見は有意義なものではあるが、浅海域植生帯の炭素吸収源インベントリを確立して気候変動緩和への貢献を明らかにするためには、移出されたBCの外洋堆積物における貯留速度の分布を定量的に解明する必要がある。そのために、少なくとも二つの主要な問題を解決する必要がある。一つは、外洋堆積物から定量検出される特定植物由来のDNA量を、同じ植物に由来するBCの量に換算する信頼できる方法を確立することである。もう一つは、スナップショットの濃度分布のデータに時間軸を挿入して、1年あたりに貯留される特定植物種由来の有機炭素の量を推算することである。今回の発表では、これら二つの問題に対する発表者らによる最近のアプローチについて説明し、特定海域における初期段階の暫定的な評価結果を紹介する。また、それに伴って新たに認識された技術上の問題点を挙げ、今後優先的に取り組まれるべき課題について提言する