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[MIS09-P08] 火山地域の高山帯に存在する有機質土壌における試料の乾燥処理が比重分画の結果に及ぼす影響
キーワード:土壌有機物、高山帯、泥炭
【背景】
土壌有機物は陸域における最大の炭素プールであり、地球の炭素循環において重要な役割を担っている。近年の研究により、無機質土壌中に存在する有機物は無機物との化学的な結合や (化学的保護)、団粒内に取り囲まれること (物理的保護)によって、微生物の分解から保護されると考えられている。有機物-無機物の相互作用の評価には、土壌中に存在する有機物の比重が一般的に1.6 g cm-3より軽く、無機物は1.6 g cm-3より重いことを利用した、ポリタングステン酸ナトリウムを用いた比重分画法が広く用いられている。これまで、発表者らは東北日本の高山帯に、多雪の影響によって有機物量が高く、かつ火山灰の堆積によって活性なAl・Feも多く含む有機質土壌が存在することを明らかにした。そのような環境では、有機物-無機物の相互作用も土壌有機物の動態に影響を及ぼしている可能性がある。しかし、有機物・水分を多く含む高山帯の有機質土壌における比重分画では、試料の均質化や水分含量のコントロールなど課題が多い一方、前処理方法の検討はされていない。鉱質土壌における比重分画では風乾土を用いることも多いが、本研究で対象としている活性なAl・Feを多く含む有機質土壌では、乾燥の方法によって人為的に有機無機集合体が形成される可能性がある。しかしながら、土壌試料の長期的な保管のためには乾燥処理を行うことが望ましい。そこで、本研究では有機質土壌を用いた比重分画において、乾燥の方法が分画結果に及ぼす影響を評価した。
【方法】
供試試料は2022年の9月に採取した鳥海山の西部、標高約1,600 m地点におけるハイマツ (Pinus pumila ) ・ チシマザサ (Sasa kurilensis ) 群落の7.5-11.5 cm (K1)、チシマザサ (Sasa kurilensis ) 群落の5-12 cm (K2)、雪田草原 (Poaceae)の7.5-11.5 cm (K3)を用いた。これらの層より上部の層では密なルートマットが存在し、有機物-無機物相互作用を評価する本研究には適していないため、供試試料を選定した。採取後、生土のまま8 mmで篩別し、一部の試料を風乾、または凍結乾燥をした。凍結乾燥試料を微粉砕したバルク試料の有機炭素・全窒素量を測定した。比重分画は生土、風乾、凍結乾燥試料それぞれを、ポリタングステン酸ナトリウムを用いて、比重1.6 g cm-3以下 (LF)、比重1.6-1.8 g cm-3 (MF)、比重1.8g cm-3以上 (HF)の3つに分画した。各画分を凍結乾燥後に重量を測定し、走査型電子顕微鏡 (SEM)で観察を行った。
【結果・考察】
各試料の炭素含量はK1: 330 g kg-1、K2: 209 g kg-1、K3: 357 g kg-1であり、C/N比は14-18の間であった。K1の比重分画の結果、各画分の重量の割合は生土と凍結乾燥試料では同様の傾向が見られたが、風乾試料で大きく異なっていた。LFの重量の割合は生土と凍結乾燥試料は約20 %であったが、風乾試料は約10 %に低下した。MFの重量の割合は生土と凍結乾燥では約60 %であったが、風乾試料は著しく高く約85 %を占めた。また、HFの重量の割合は生土と凍結乾燥試料で約 20 %、風乾試料では著しく低く約5 %であった。各画分のSEM画像から、生土と凍結乾燥試料では主にLFに粗大な根や分解が進んだ植物残渣、MFに細根及び分解が進んだ植物残渣と鉱物粒子で構成される団粒、HFには鉱物粒子および鉱物粒子に富んだ植物残渣を含む団粒が観察された。また、風乾試料では観察された団粒のサイズが大きく、風乾により人為的に団粒が形成されていることが示唆された。以上から、有機質土壌の比重分画における乾燥処理は風乾ではなく、凍結乾燥が適していると明らかになった。さらに発表ではK2、K3の分画の結果も含めて、乾燥処理が比重分画の結果に及ぼす影響を考察する。
土壌有機物は陸域における最大の炭素プールであり、地球の炭素循環において重要な役割を担っている。近年の研究により、無機質土壌中に存在する有機物は無機物との化学的な結合や (化学的保護)、団粒内に取り囲まれること (物理的保護)によって、微生物の分解から保護されると考えられている。有機物-無機物の相互作用の評価には、土壌中に存在する有機物の比重が一般的に1.6 g cm-3より軽く、無機物は1.6 g cm-3より重いことを利用した、ポリタングステン酸ナトリウムを用いた比重分画法が広く用いられている。これまで、発表者らは東北日本の高山帯に、多雪の影響によって有機物量が高く、かつ火山灰の堆積によって活性なAl・Feも多く含む有機質土壌が存在することを明らかにした。そのような環境では、有機物-無機物の相互作用も土壌有機物の動態に影響を及ぼしている可能性がある。しかし、有機物・水分を多く含む高山帯の有機質土壌における比重分画では、試料の均質化や水分含量のコントロールなど課題が多い一方、前処理方法の検討はされていない。鉱質土壌における比重分画では風乾土を用いることも多いが、本研究で対象としている活性なAl・Feを多く含む有機質土壌では、乾燥の方法によって人為的に有機無機集合体が形成される可能性がある。しかしながら、土壌試料の長期的な保管のためには乾燥処理を行うことが望ましい。そこで、本研究では有機質土壌を用いた比重分画において、乾燥の方法が分画結果に及ぼす影響を評価した。
【方法】
供試試料は2022年の9月に採取した鳥海山の西部、標高約1,600 m地点におけるハイマツ (Pinus pumila ) ・ チシマザサ (Sasa kurilensis ) 群落の7.5-11.5 cm (K1)、チシマザサ (Sasa kurilensis ) 群落の5-12 cm (K2)、雪田草原 (Poaceae)の7.5-11.5 cm (K3)を用いた。これらの層より上部の層では密なルートマットが存在し、有機物-無機物相互作用を評価する本研究には適していないため、供試試料を選定した。採取後、生土のまま8 mmで篩別し、一部の試料を風乾、または凍結乾燥をした。凍結乾燥試料を微粉砕したバルク試料の有機炭素・全窒素量を測定した。比重分画は生土、風乾、凍結乾燥試料それぞれを、ポリタングステン酸ナトリウムを用いて、比重1.6 g cm-3以下 (LF)、比重1.6-1.8 g cm-3 (MF)、比重1.8g cm-3以上 (HF)の3つに分画した。各画分を凍結乾燥後に重量を測定し、走査型電子顕微鏡 (SEM)で観察を行った。
【結果・考察】
各試料の炭素含量はK1: 330 g kg-1、K2: 209 g kg-1、K3: 357 g kg-1であり、C/N比は14-18の間であった。K1の比重分画の結果、各画分の重量の割合は生土と凍結乾燥試料では同様の傾向が見られたが、風乾試料で大きく異なっていた。LFの重量の割合は生土と凍結乾燥試料は約20 %であったが、風乾試料は約10 %に低下した。MFの重量の割合は生土と凍結乾燥では約60 %であったが、風乾試料は著しく高く約85 %を占めた。また、HFの重量の割合は生土と凍結乾燥試料で約 20 %、風乾試料では著しく低く約5 %であった。各画分のSEM画像から、生土と凍結乾燥試料では主にLFに粗大な根や分解が進んだ植物残渣、MFに細根及び分解が進んだ植物残渣と鉱物粒子で構成される団粒、HFには鉱物粒子および鉱物粒子に富んだ植物残渣を含む団粒が観察された。また、風乾試料では観察された団粒のサイズが大きく、風乾により人為的に団粒が形成されていることが示唆された。以上から、有機質土壌の比重分画における乾燥処理は風乾ではなく、凍結乾燥が適していると明らかになった。さらに発表ではK2、K3の分画の結果も含めて、乾燥処理が比重分画の結果に及ぼす影響を考察する。