日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 山の科学

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、西村 基志(国立極地研究所 国際北極環境研究センター)、座長:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、西村 基志(国立極地研究所 国際北極環境研究センター)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

11:05 〜 11:20

[MIS10-08] 飛騨山脈南部における震度観測ネットワークの構築の実現可能性の研究

*大見 士朗1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:飛騨山脈、有感地震、簡易震度計

1.はじめに
飛騨山脈は、標高3,190mの奥穂高岳を代表とする3,000mを超す山々が聳える日本の代表的な山岳地帯である。その南部に位置する奥飛騨・上高地地区は日本国内有数の山岳観光地であるが、ここには活火山焼岳が位置することに加えて頻繁に群発地震が発生するなど、活発な地殻活動が認められる地域でもある。岐阜県高山市に本拠を置く京都大学防災研究所附属地震災害研究センター上宝観測所(以下、観測所と記す)は1970年代後半より中部地方中北部に観測網を展開し当地域の地殻活動の観測研究を実施してきたが、2010年前後からは奥飛騨・上高地地区の焼岳火山を中心とする地域の観測体制を強化してきた。

2.群発地震時に地域社会に求められる情報
 当地域では頻繁に有感地震を伴う群発地震が発生し、1998年には、観測所が同地域で地震観測を開始して以来最大級の群発地震が発生した。また、2010年代以降に限っても、2011年、2014年、2018年などに活発な活動が見られた。さらに2020年には、1998年の活動に匹敵する規模の群発地震が発生し、多くの現地有感地震が発生した。Fig.1に気象庁カタログによる、2020年に発生したマグニチュード3以上の地震の震央をマゼンタ色の丸印で示す。これらの地震は、Fig.1のJMAで示される気象庁の公式震度発表点(奥飛騨温泉郷栃尾)での震度値よりも、震源域に近いDP.YAKE観測点で計測した揺れの方が有意に大きいという結果が得られている。
 従来から、当地での群発地震の発生の際には、観測所は地域社会からの求めに応じて地震活動情報の提供を行っており、2020年の地震活動に際しても同様の情報提供を実施してきた。2020年の地震活動について、奥飛騨・上高地地区の関係者に、この地震活動時に必要と思われた情報の種類について聞き取りを行ったところ、以下の2点に集約できることがわかった。(1) 気象庁の情報が自治体経由で伝達されて来るのに時間を要し、地元関係者ですら、現地で起きている事象を即時に把握するための情報が少ない。そのため、当地は観光業が主要産業であるにもかかわらず、SNS等で流れる玉石混交の情報に対し正確な情報に基づく即応ができず、観光客に誤った印象を与えていることを怖れている。(2)当地域を訪れる人々は大別すると一般の観光客と登山客に分けられ、後者は常時落石等の危険を伴う急峻な山岳地帯に入域し、山小屋等に滞在する。地震による落石や雪崩等の発生可能性の判断は、登山者本人のみならず遭難対策にあたる現地山小屋関係者の生命にも関わる事項となる。そのため、登山者のみならず関係者の行動指針となるような当山域の面的な震度情報等が求められている。

3.簡易震度計ネットワークの構想
前述のような状況に対応するための一案は、気象庁や自治体等の公的機関に公式な震度観測点の増設を依頼することであるが、公式観測点の情報は原則公開で、風評被害の懸念等から関係者の合意を得ることは難しく、また、十分と考えられる点数の観測点を設置することも予算上の理由から困難が予想される。これに加え、自治体の防災課や危機管理課、また、火山防災協議会のような組織には、地震火山活動を解説できる常勤の専門家が配置されていないという構造的な問題があり、きめ細かな情報発信には困難が伴うことも予想される。
このように、いわば「公助」を期待するのは困難を伴うことから、「自助」で可能な方策を模索する必要を痛感し、本研究を立案した。本研究の最終的な目標は、安価な簡易震度計を製作し、趣旨に賛同してくださる施設に設置し、それらを緩やかにネットワーク的に繋いで、関係者が地震時の情報を共有するようなシステムを構築・運用することである。本研究では、機器の製作・展開のみでなく、事後のシステムの継続的な運用主体や、得られた情報の共有の在り方などの議論も行っていく。

4.進捗状況
簡易震度計ネットワークを実現するための要素技術はすでにほぼ確立している。我々は、これらの技術を参照し、Analog Devices社の3軸MEMS加速度計であるADXL355型センサを使用した、ネットワーク接続可能な簡易震度計を試作している(Photo.1)。Photo.1は、上から、有人施設用にディスプレイを装備した本体、無人施設用の本体、MEMS加速度計の容器である。Fig.1の緑色の四角はすでに試験観測を始めている点、水色の四角は実験を検討している点であり、今後、必要とされる改良を加えていく。

5.謝辞
本研究は、「令和4年度京都大学防災研究所共同研究・地域防災実践型(一般)2022P-02 課題名:飛騨山脈震度観測ネットワークの構築と運用の実現可能性の調査研究」として採択されたものであり、飛騨山脈ジオパーク推進協議会、自然公園財団上高地支部、北アルプス山小屋交友会、京都大学防災研究所の関係者の共同研究として実施されている。