日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] ジオパーク

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)、大野 希一(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会事務局)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、座長:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

14:00 〜 14:15

[MIS11-02] ジオパークにおける探究学習活動とその効果―鳥海山・飛島ジオパークの例-

*大野 希一1 (1.鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会事務局)

キーワード:探究学習活動、鳥海山・飛島ジオパーク、遊佐町立遊佐中学校

ジオパークエリア内の学校では、ジオパークをフィールドに活用した学習活動が精力的に実施されている。しかし、ジオパーク学習が生徒たちにもたらした効果やその影響を検証した例はそれほど多くない。そこで今回は、鳥海山・飛島ジオパークの構成自治体の一つである山形県飽海郡遊佐町の町立遊佐中学校(以降、遊佐中)が2022年度に実施した、ジオパークのサイトを活用した探究学習活動を対象に、その効果を検証した例を紹介する。
 遊佐町は鳥海山の南西麓に位置し、月光川がつくる扇状地の末端に市街地が発展しているため、鳥海山の美しい景観と町内のいたるところに湧水が見られる。遊佐中は「多様な視点で地域を見る目と素朴な疑問を持つ力を育む」ことを目的に、4月から12月まで総合の時間をほぼ毎回「ジオパークのサイトの探究」に充てた。対象は1年生90名で、小学校でジオパークの出前授業を受講していない生徒が一部含まれている。
 4月から5月にかけては、(一社)鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会(以下、ジオ協)の研究員やジオ協が認定する学習支援員および認定ジオガイドが、鳥海山・飛島ジオパークのサイトに関する講話を提供した。6月1日と2日にはフィールドワークを行い、学習支援員や認定ジオガイドがサイトの説明を行った。サイトの説明にあたっては、地形地質情報に加え、イバラトミヨやバイカモ等の動植物、松尾芭蕉などの歴史上の人物が遊佐町を訪れた時のエピソード、さらには地域の伝説も紹介した。また昼食には地域産品を活用したカレーを提供した。座学とフィールドワークで得た情報をもとに、7月には生徒たちは班を作り、探究活動を行うサイトと探究テーマの選定を始めた。夏休み明けの9月には探究学習を行うサイトを決定するとともに、テーマと仮説を立て、11月までその検証を行った。11月のクラス発表を経て、各クラスから1件ずつ計3件の発表班を選出し、12月にジオ協が主催した「学習研究発表会」の場で、一般市民や他地域の小中学生に成果を発表した。遊佐中生の発表を聴講した他校の生徒からは「仮説を立ててそれを確かめていることがすごい」といった感想が寄せられた。
 探究学習活動を始める前の4月と終了後の12月に、生徒たちに同じアンケートを課し、それらを比較することで、探究学習活動が生徒に与えた効果や影響を検証した。なお、今回行ったアンケートの項目は、藤岡・他(2023)に従った。
 まずジオパークから連想されるイメージに近い言葉を、16個のキーワードの中から複数選ばせたところ、4月も12月も上位5つは「自然環境」、「湧水」、「火山・噴火」、「地層・岩石」、「地形」となった。ただ、90人の生徒が選んだキーワードの総数は、420個から700個に増加した。中でも「農水産物」、「民話・伝説」、「郷土料理」等、人の生活に関わるキーワードを選択した割合が2~4ポイント増加した。これは、探究学習活動をきっかけに、生徒たちの地形地質以外の地域資源の認知度が向上したことを示唆する。次に、ジオパークに対する興味や学習内容への満足度およびその難しさや楽しさに関する7項目のアンケートの結果を比較したところ、「ジオパークプログラムが何かを(何とか)説明できる」という生徒は増加し、「ジオパーク学習は楽しい」と回答する生徒も増加した。その一方で、「ジオパーク学習は難しい」と感じた生徒が増加したほか、鳥海山・飛島ジオパークそのものへの興味関心を抱く生徒の数は減少した。特に、設問に「該当しない」と回答した生徒の数は大きく増加した。
 「該当しない」と回答した生徒数の増加は、一部の生徒が探究学習型の授業についてこられなくなり、授業そのものに対する興味を失ったことを暗示する。探究学習型の授業では、自らが課題を見つけ、その課題の解決に向けて立てた仮説を検証していくプロセスが求められるが、中学1年生にはそのプロセスの踏襲が難しかった可能性が高い。また、ジオ協側が生徒たちが立てた仮説を検証する活動を十分に支援できなかったことも、授業に対する生徒たちのモチベーションを下げた一因といえる。「地域資源の保全」の重要性に対する認識度は4月も12月も変化がなかったことから、生徒たちは地域資源を守ることへの意義については一定の理解がある。しかし、授業そのものに対する興味関心が薄れれば、地域資源の保全の担い手の育成は難しくなる。探究学習型の授業を受けた経験がない中学生については、生徒が主体的に授業に参加できるよう、ある程度具体的な道筋を示した教育プログラムを提供するとともに、ジオ協研究員はもちろん、学習支援員や認定ジオガイドが生徒たちとコミュニケーションを深め、学校と協力しながら、生徒たちの気づきを実質的に検証する機会を創出する必要がある。