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[MIS13-05] 古地理・古環境復元にあたっての介形虫の可能性
キーワード:顕生代、介形虫、機能形態学、古環境、古地理
介形虫は,2枚の石灰質の殻をもつ甲殻類の一種である.微化石として,オルドビス紀以降,世界中の堆積岩から数多く報告されている.特に海生種・汽水性種では,生涯底生生活を営むことから,地域固有性が高く,古地理の復元にあたっては,重要な分類群の一つとされている.演者は,国内外の研究者と共同して,本邦の古生代~現在の(古)生物地理学的研究を行っている.介形虫は殻上に多数の形質をもち,それらは遺伝的制約が大きいもの,環境的な変化によって大きな可塑性を示すもの,遺伝的・環境的制約をともに受けるものがある.遺伝的制約の強い形質として,感覚孔の位置や数があげられる.海生種では,本形質は種内で安定しているため,種同定に利用でき,化石種を用いた,種の起源の場所や,その分散経路を推定することができる.本講演では,新生代後期以降,化石として多産し,現在も東アジア周辺に生息する浅海性のLoxoconcha japonicaグループを例にとり,その起源と分散経路について紹介する.このような種で安定した形質に着目すれば,絶滅した分類群であっても,分散経路や地理的分布を推定することが可能である.このような例として,古第三紀およびデボン紀の浅海性・干潟性の介形虫群の研究例を報告する.一方で,古環境復元については,現生アナログ法や殻の微量元素および安定同位体比を用いた,現生種に基づく分析に大きく依存している.本講演では,現生種の分析に依存しながらも,化石種にも適用できる古環境の推定方法について議論する.そのためには,周りの環境に左右され,化石として形態が保存される形質の機能形態学的研究が好都合である.特に,介形虫の眼はノープリウス眼とよばれる明暗のみを感受する優れた集光器官である.ノープリウス眼,とくに化石として残る眼瘤のかたちの定量化によって,海底下の光強度および水深との定量化が可能になりつつある.介形虫の感覚孔の位置や数は遺伝的に安定しているが,感覚孔の中には篩状の小孔が周囲に開口しているものがあり,この小孔については,長い間,何らかの環境を受容するためであると考えられてきた.我々の研究室では,有明海に現生するCytheromorpha acupunctataのオス個体の右殻の相同な感覚孔に着目し,篩状感覚孔の空隙率について,環境と相関があるかどうか予察的に調査した.その結果,篩状感覚孔の空隙率は,温度,溶存酸素,pHと関連があることが分かった.これら3つのパラメータを変化させながら飼育実験を行うことにより,篩状感覚孔が水環境の指標として役立つことが期待できる.このような,形態に基づく環境依存性の高い形質を環境要因と比較・検討することで,中・古生代の海洋環境(特に海底付近の環境)について,高精度に復元することが,近い将来可能になると考えている.