日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 地質学のいま

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:辻森 樹(東北大学)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、尾上 哲治(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、座長:河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)、辻森 樹(東北大学)

13:45 〜 14:00

[MIS13-12] 日本列島各地に行き渡った福徳岡ノ場の2021年噴火由来のチョコチップクッキー様軽石とSNSを利用した地球科学の可能性について

*吉田 健太1、丸谷 由2桑谷 立1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.一般社団法人ネコのわくわく自然教室)

キーワード:福徳岡ノ場、海底火山、漂着軽石、Twitter

2021年8月に伊豆小笠原弧の南端にある海底火山「福徳岡ノ場」が巨大噴火を起こした.成層圏に達する噴煙の様子は気象衛星「ひまわり」の画像からも容易に観察出来たこともあり,その噴火活動は当初から地球科学関係者の注目が大きかったと言える.噴火に際して放出された多量の軽石は,同年10月4日に沖縄県の南北大東島へと到達すると,10月中旬にかけて鹿児島県奄美大島~沖縄本島へと大規模に漂着した.漂着軽石は砂浜の景色を一変させ,港湾部では海面を覆うことで船舶の運航に支障を来し,全国ニュースでも繰り返し取り上げられた.その後軽石は東西方向に拡散し,2021年11月にかけて東は関東地方太平洋沿岸,南西方向は台湾やフィリピンに到達,2022年に入ると,2月には西方でタイに到達する一方で,東方では8~9月に日本海側で北海道に至るまでの各地で漂着が確認された [1].
福徳岡ノ場由来の軽石は,その殆どが明るい灰色の基質部に黒色の粒を胚胎する特徴を有し,「チョコチップクッキー」にも例えられる見た目により野外で容易に判別が可能である.この話題性と見た目の特徴から,漂着地域ではSNSへの軽石に関する投稿が積極的に為され,日本各地での漂着時系列が精度良く記録されることとなった.
軽石の漂流・漂着現象は,規模が大きい場合は船舶の運航に支障を来し,養殖魚の誤飲や出漁制限などの経済的な被害も出る火山災害としての側面がある一方で,漂着の現場はただの海岸であり,大きな危険もなく生々しい火山活動の結果を観察出来る絶好の場であると言える.2021年の軽石漂着に関しては,奄美大島や沖縄本島を中心に,漂着地域の住民と,他地域で軽石に関心を持つ研究者との間で,SNSを通じた活発な意見交換が繰り広げられ,福徳岡ノ場の軽石に関する理解が飛躍的に進んだ.また,特に沖縄では,軽石に関する市民教室などが積極的に催されており,身近な地質現象として注目を集めていたことは間違いない.
本講演では,軽石漂着に関する地質学・岩石学的な特徴を整理しながら,2021年の福徳岡ノ場の噴火に由来する軽石漂着現象が,SNS上でどのように関心を集めていったかを俯瞰的に紹介する.更に,今後類似の現象があった際に地質学の視点を効果的に広めるための課題や,SNSを通じて開ける地球科学の可能性についても議論する.また,JAMSTECで展開している漂着軽石および福徳岡ノ場近傍での調査航海についても簡単に触れる予定である.
[1] 吉田ほか (2022) 岩石鉱物科学 https://doi.org/10.2465/gkk.220412