14:30 〜 14:45
[MIS13-15] 日本南極地域観測隊調査地域におけるハードロック研究のいま
キーワード:南極、大陸衝突帯、大陸地殻、部分融解、地殻流体、マグマ
近年の日本南極地域観測隊におけるハードロック研究は主として東南極リュツォ・ホルム岩体(LHC)とセール・ロンダーネ山地(SRM)に露出する変成岩類・火成岩類を対象としている。この地域は、東アフリカ南極造山帯とクンガ造山帯が交差する場所であり、この地域での造山運動が1度なのか複数回なのかという、ゴンドワナ大陸形成過程の未解決問題を検証できる地域である[1]。私たちは(1)調査地域の形成テクトニクスの研究と(2)衝突帯下部地殻岩石を利用した地殻の部分融解と花崗岩質マグマ生成過程および地殻内流体活動の研究を、両輪と位置付けている。形成テクトニクスの理解があってこそ(2)で明らかにした過程が起きている現在の地球上の場が明らかになるからである。
LHCは、630-520 Maの角閃岩相高温部からグラニュライト相に至る高度変成地域だが、最高変成度部には超高温(UHT)変成岩が露出する。近年、砕屑性ジルコン年代に基づく原岩ユニット区分が進むと同時に、プリンスオラフ海岸沿いから、6-5億年前の変成を経ていない10億年のユニットが見つかった[4]。また、グラニュライト相地域では基質鉱物が示す変成度が累進的に上昇するが、ザクロ石の包有物に基づく解析の結果、最高変成部のUHT地点をのぞくグラニュライト相高温部地域では下部地殻相当の圧力時にほぼ同じ温度条件にあったと判明した[5]。
LHCの形成テクトニクスは理解の途上だが、最近UHT変成岩の形成機構の理解に対する進展があった。[6]はジルコンおよびザクロ石中の包有物を用いたP-T-t履歴解析から、UHT変成岩の昇温過程が昇圧を伴う時計回りの履歴であり、40 Myrの高温継続時間をもつことを示した。また、ジルコン中のナノ花崗岩包有物を高圧実験でガラス化して組成を求め、ザクロ石中のガラス包有物の組成と併せて解析し、メルトの組成変化が高温高圧側に向かう閉鎖系の相平衡で説明できることを明らかにした。以上からUHT変成作用の昇温はゆっくりしたもので、放射性元素の崩壊熱が主たる熱源であると考えた。
SRMには、650-520 Maの衝突境界がMTBとして露出する。その上盤側はNEテレーンと呼ばれ、時計回りのP-Tパスを持つグラニュライト~UHT変成岩が分布する[7, 8]。一方、下盤側はSWテレーンと呼ばれ、反時計回りのP-Tパスを持つグラニュライトと低変成度の岩石が露出する[7]。[7]は650-600 MaにNEテレーンがSWテレーン上に衝上するテクトニックモデルを提案した。一方[9]はSRM東部において580-540Maに活動した巨大なスラストに沿って、アフリカのナムノテレーンがナンプラテレーン上に衝上したモデルを提案し、SRMは上盤側に属するとした。近年、SWテレーンの複数の露岩から時計回りのP-T-tパスが報告され、複変成作用の検証とともに、テクトニックモデルの検証も進んだ。[10]はMTBとは別の低角構造境界の存在を中央SRMで提案し、その上盤側は600Maの変成を経験したが下盤側は550Maの変成しか経験していないとした。
テクトニクスの研究と並行して、SRMでは地殻中~下部における塩水流体活動の研究が盛んである。[11]はMTBに沿った高Cl濃度の鉱物の偏在を報告し、後退変成期の塩水流入活動が壁岩に残した拡散パターンを用いて物質移動を論じ、こうした組織が変成ピーク直後から後退変成期の割れ目や剪断帯に沿った塩水流入によってできたことを示した。流体の起源は海水ないしは花崗岩やペグマタイトが固結時に放出した流体とされる[12]。[13]は同様の組織に移流拡散方程式に基づく反応輸送モデルを適用し、半日以内の流体流入継続時間を見積もった。[14]はドローンを活用した花崗岩体周辺のペグマタイト脈の貫入方位解析から応力場の変化を読み取った。一方、昇温期に流入した流体は低い酸素同位体比を持ち、その起源は苦鉄質岩由来の可能性が指摘された[15]。
以上のように、LHCやSRMは活動的地殻深部での部分融解や流体活動を明らかにするために絶好のフィールドである。南極地質研究への多くの若手の参加を期待する。
[1]Satish-Kumar+ 2013 PR [4]Dunkley+ 2020 PS [5]Suzuki & Kawakami 2019 JMPS [6] Suzuki+ 2023 JpGU abst [7]Osanai+ 2013 PR [8]Higashino & Kawakami 2022 JMPS [9] Grantham+ 2013 PR [10]Adachi+ 2023 JMPS in review [11]Higashino+ 2019 JPet [12]Kawakami+ 2022 NIPR abst [13]Mindaleva+ 2020 Lithos [14]Uno+ 2022 JpGU [15]Higashino+ 2019 JMG
LHCは、630-520 Maの角閃岩相高温部からグラニュライト相に至る高度変成地域だが、最高変成度部には超高温(UHT)変成岩が露出する。近年、砕屑性ジルコン年代に基づく原岩ユニット区分が進むと同時に、プリンスオラフ海岸沿いから、6-5億年前の変成を経ていない10億年のユニットが見つかった[4]。また、グラニュライト相地域では基質鉱物が示す変成度が累進的に上昇するが、ザクロ石の包有物に基づく解析の結果、最高変成部のUHT地点をのぞくグラニュライト相高温部地域では下部地殻相当の圧力時にほぼ同じ温度条件にあったと判明した[5]。
LHCの形成テクトニクスは理解の途上だが、最近UHT変成岩の形成機構の理解に対する進展があった。[6]はジルコンおよびザクロ石中の包有物を用いたP-T-t履歴解析から、UHT変成岩の昇温過程が昇圧を伴う時計回りの履歴であり、40 Myrの高温継続時間をもつことを示した。また、ジルコン中のナノ花崗岩包有物を高圧実験でガラス化して組成を求め、ザクロ石中のガラス包有物の組成と併せて解析し、メルトの組成変化が高温高圧側に向かう閉鎖系の相平衡で説明できることを明らかにした。以上からUHT変成作用の昇温はゆっくりしたもので、放射性元素の崩壊熱が主たる熱源であると考えた。
SRMには、650-520 Maの衝突境界がMTBとして露出する。その上盤側はNEテレーンと呼ばれ、時計回りのP-Tパスを持つグラニュライト~UHT変成岩が分布する[7, 8]。一方、下盤側はSWテレーンと呼ばれ、反時計回りのP-Tパスを持つグラニュライトと低変成度の岩石が露出する[7]。[7]は650-600 MaにNEテレーンがSWテレーン上に衝上するテクトニックモデルを提案した。一方[9]はSRM東部において580-540Maに活動した巨大なスラストに沿って、アフリカのナムノテレーンがナンプラテレーン上に衝上したモデルを提案し、SRMは上盤側に属するとした。近年、SWテレーンの複数の露岩から時計回りのP-T-tパスが報告され、複変成作用の検証とともに、テクトニックモデルの検証も進んだ。[10]はMTBとは別の低角構造境界の存在を中央SRMで提案し、その上盤側は600Maの変成を経験したが下盤側は550Maの変成しか経験していないとした。
テクトニクスの研究と並行して、SRMでは地殻中~下部における塩水流体活動の研究が盛んである。[11]はMTBに沿った高Cl濃度の鉱物の偏在を報告し、後退変成期の塩水流入活動が壁岩に残した拡散パターンを用いて物質移動を論じ、こうした組織が変成ピーク直後から後退変成期の割れ目や剪断帯に沿った塩水流入によってできたことを示した。流体の起源は海水ないしは花崗岩やペグマタイトが固結時に放出した流体とされる[12]。[13]は同様の組織に移流拡散方程式に基づく反応輸送モデルを適用し、半日以内の流体流入継続時間を見積もった。[14]はドローンを活用した花崗岩体周辺のペグマタイト脈の貫入方位解析から応力場の変化を読み取った。一方、昇温期に流入した流体は低い酸素同位体比を持ち、その起源は苦鉄質岩由来の可能性が指摘された[15]。
以上のように、LHCやSRMは活動的地殻深部での部分融解や流体活動を明らかにするために絶好のフィールドである。南極地質研究への多くの若手の参加を期待する。
[1]Satish-Kumar+ 2013 PR [4]Dunkley+ 2020 PS [5]Suzuki & Kawakami 2019 JMPS [6] Suzuki+ 2023 JpGU abst [7]Osanai+ 2013 PR [8]Higashino & Kawakami 2022 JMPS [9] Grantham+ 2013 PR [10]Adachi+ 2023 JMPS in review [11]Higashino+ 2019 JPet [12]Kawakami+ 2022 NIPR abst [13]Mindaleva+ 2020 Lithos [14]Uno+ 2022 JpGU [15]Higashino+ 2019 JMG