日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 地質学のいま

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (14) (オンラインポスター)

コンビーナ:辻森 樹(東北大学)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、尾上 哲治(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[MIS13-P09] 白亜紀から新第三紀におけるマグマ-熱水系の変遷: 新潟県赤谷鉱床の鉄鉱化作用を例として

*瀬野 洸太朗1渡辺 寧1越後 拓也1青木 翔吾1 (1.秋田大学)


キーワード:赤鉄鉱鉱床、柘榴石、マグマ-熱水系

新潟県赤谷鉱床は足尾帯における棚倉構造線以南の飯豊山地南西側に位置する鉄鉱床である.赤鉄鉱鉱石を主として,黄銅鉱鉱石も採掘していた.赤谷鉱床は,流紋岩と赤鉄鉱鉱体の分布が密接な関係にあり,鉛亜鉛スカルン型の接触交代鉱床は後期白亜紀の花崗岩,熱水鉱脈および接触変成型の赤鉄鉱鉱床は前から中期中新世の流紋岩の火成活動によって形成した.
本研究では,赤谷鉱床に分布する火成岩とスカルン,鉄・硫化物鉱化作用との関連を明らかにする目的で,詳細な野外調査や岩石記載,赤鉄鉱および柘榴石の鉱物学的・地球化学的記載・分析を行い,これらの関連を議論する.
鉱床母岩は前期ジュラ系の足尾帯の結晶質石灰岩やチャート,泥質変成岩からなり,後期白亜紀の二王子岳花崗岩や前~中期中新世のドレライトが母岩に貫入する.さらに,前期中新世の流紋岩がこれらを被覆または貫入している.花崗岩と結晶質石灰岩との境界はproximal skarnが,結晶質石灰岩や泥質変成岩中にはdistal skarnが認められる.赤鉄鉱鉱体は流紋岩や苦灰岩,緑泥石帯(スカルンや流紋岩質貫入岩に伴う),カオリナイト帯(流紋岩質貫入岩に伴う),泥質変成岩中に認められ,distal skarn中に新たな赤鉄鉱鉱体を発見した.この鉱体ではmushketoviteが認められ,それ以外の鉄鉱体には認められない.赤谷鉱床のスカルン帯の生成時期は産状と鉱物組み合わせから,珪酸塩鉱物が生成するprograde stageと金属鉱物や含水鉱物が生成するretrograde stageに分けることができた.
後期白亜紀二王子岳花崗岩の帯磁率は1.26×10-3 SIでチタン鉄鉱系列花崗岩の値を示すほか,全岩化学組成分析の結果では,アルミナ飽和度が1.0-1.4の値を示した.全スカルン帯における柘榴石の定量分析結果は,andradite (Ca2+3Fe3+2(SiO4)3)成分が80.39—100.00 wt.%,grossular (Ca2+3Al3+2(SiO4)3)成分が0.00—19.61 wt.%,spessartine (Mn2+3Al3+2(SiO4)3)成分が0.00—6.48 wt.%であった.この結果を踏まえてandraditeは光学的特徴や産状,化学組成からAdr1からAdr4の4タイプに分類された.MushketoviteのピークをRaman分光法で調べた結果,初生赤鉄鉱+磁鉄鉱のピークの組み合わせが認められた.赤鉄鉱鉱体は産状ごとにHem1からHem8の8つのタイプに区分された.各タイプの赤鉄鉱および磁鉄鉱の微量元素測定結果から,SiやMg,Mn,Ti,Alなどで違いがみられた.
チタン鉄鉱系列の二王子岳花崗岩は,パーアルミナスで比較的還元的なPb-Znスカルンの関係火成岩の組成と類似した特徴を示すことは,還元的なスカルンが形成したことを示唆する.したがって,スカルン帯中の赤鉄鉱鉱体は,花崗岩の火成活動に伴う熱水から直接形成(prograde stage)したのではなく,スカルン鉱化作用後期で酸化的な環境下で小規模に形成(retrograde stage)したと考えられる.Andraditeはdistal skarnで端成分に近づき,proximal skarnでgrossular成分に富む傾向を示すほか,基本的にコア部からリム部にかけて,還元的→酸化的→還元的な特徴を有す.このことからスカルンを形成した熱水がredox反応を繰り返していたことを示す.
8つのタイプの赤鉄鉱鉱体は各関係火成岩による鉱化作用の時期から大きく次の3つに分類できる.(1) Hem1-3はスカルンを交代して形成した赤鉄鉱を含み,Mushketoviteが存在しandraditeおよび赤鉄鉱/磁鉄鉱の化学組成がredox反応を示すほか,後期白亜紀二王子岳花崗岩の火成活動によって形成したと考えられる.(2) Hem4はスカルンを交代して形成した赤鉄鉱を含み,Marmiteが存在し赤鉄鉱/磁鉄鉱の化学組成がnon-redox反応を示すほか,前~中期中新世ドレライトの火成活動によって形成したと考えられる.(3) Hem5-8は苦灰岩または緑泥石を交代した赤鉄鉱を含み,黄銅鉱やカオリナイトやシデライト,黄鉄鉱を大規模に伴い,アパタイトや重晶石を小規模に伴うほか,前~中期中新世流紋岩の火成活動によって形成したと考えられる.このことは,Hem1からHem8の赤鉄鉱および磁鉄鉱の微量元素濃度の違いが,成因(鉱化流体が幅広い水岩石比を持つほか,magmatic起源の高温下のsilicate melt中で結晶化した,あるいはhydrothermal-magmatic起源の低温下にかけて熱水の交代作用によって晶出したなど)の違いに起因すると考えられ,柘榴石の化学組成やほかの鉱物との共生関係とも調和的であることを示す.
したがって,本研究における詳細な野外調査や岩石記載,関係火成岩の全岩化学組成,柘榴石や赤鉄鉱および磁鉄鉱の微量元素組成結果が,赤鉄鉱鉱体の生成環境または条件の違いを反映しており,3つの異なる時期において8つのタイプの赤鉄鉱鉱体が形成したことから,同一場所で白亜紀から新第三紀にかけて時代を異にするマグマ-熱水系の変遷が新たに明らかになった.