日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2023年5月21日(日) 15:30 〜 16:45 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、塚本 勝男(東北大学)、座長:三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)

15:30 〜 15:45

[MIS14-05] ZnO針状単結晶が炭酸カルシウム結晶の析出量・多形転移に及ぼす影響

*山本 夏生1、喜岡 新1山田 泰広1 (1.九州大学)

キーワード:炭酸カルシウム、スケール、酸化亜鉛針状単結晶

幅広い結晶学分野において、地殻の約4%を占めて長期的な全球CO2循環において重要な役割を担う炭酸カルシウム結晶の理解は重要である。しかし、様々な化学的・環境条件における炭酸カルシウムの結晶成長や多形転移の理解は乏しい。また工学的に見ても、配水管や熱交換器などで発生する炭酸カルシウムのスケールは配管の閉塞や腐食の促進などの重大な障害を引き起こすが、従来のスケール抑制手法は、薬剤添加や機械的除去が主流だがコスト面や環境配慮で多くの課題がある(Kioka and Nakagawa, 2021)。本研究では、ZnO針状単結晶が炭酸カルシウム結晶の析出量および多形転移に及ぼす影響について検証することを目的とした。
本研究は室内実験によって検証した。NaHCO3溶液とCaCl2×2H2O溶液(300mM)を混合することでCaCO3を析出させた。ステンレス鋼基板(SUS304)試験片にZnO針状単結晶・シリコーン複合体コーティングを施し、30, 60, 120, 180分間浸漬させた。浸漬後の試験片を洗浄・乾燥し、重量測定による付着抑制率算出とSEMを用いた表面観察を行った。浸漬条件として攪拌・静止状態、温度、濃度を変化させることによって、異なる条件下での付着量や多形転移について評価した。
その結果、全ての条件下でZnOコーティング試験片の重量増加量はリファレンス試験片より小さかった。付着抑制率に換算すると、平均で、静止状態20℃で60.5%、60℃で48.7%、攪拌状態20℃で55.1%、濃度1/2条件で68.2%となった。これはZnOコーティング表面の微細な凹凸構造が試験片の表面エネルギーを低下させ、結晶が付着しにくい状態になったことで抑制効果が得られたと考えられる。またコーティング微細構造による空気層が水中でも維持されることで、結晶生成の初期段階では液相に接触しにくい状態になっていると推測した。次に結晶多形について注目すると、リファレンス試験片では全条件でカルサイトの存在比が最も高くなった。これは使用したSUS304ではステンレス鋼によるカルサイト析出促進効果である。一方で、ZnOコーティング試験片では20℃ではカルサイト、60℃ではアラゴナイトが主要な多形として析出した。これはZnOコーティングが基盤素材の溶出イオンの影響を打消し、溶液温度に従って結晶多形が析出したと考えられる。