日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (7) (オンラインポスター)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、塚本 勝男(東北大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS14-P06] 微小重力環境下において,なぜ氷結晶の成長速度は周期的に振動するのか?(2):フェーズフィールド法による数値計算

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院理学研究科)

キーワード:結晶成長、氷、不凍タンパク質、振動現象、微小重力、数値計算

寒冷地に生息する魚類や昆虫類は,氷結晶の成長を阻害する作用を持つタンパク質を自身の体内で合成することで,体液の凍結から身を守っている。このような作用を持つタンパク質を不凍タンパク質(AFP,不凍糖タンパク質AFGPを含む)といい,水の凍結現象に関わるさまざまな分野への応用が期待されている。氷結晶の成長に対するAFGPの作用を結晶成長学的観点から明らかにすることを目的として,2013-2014年に国際宇宙ステーションにおいて,過冷却水中で成長する氷結晶ベーサル面の分子レベルその場観察実験(Ice Crystal 2 project)が実施された[1]。AFGPを含む過冷却水の中で成長する氷結晶ベーサル面の面成長速度を解析したところ,装置側で過冷却度を0.3 Kで一定に設定してあるにもかかわらず,面成長速度が10秒ほどの周期で自発的に振動を繰り返す現象が確認された(自発的振動成長)。面成長速度は,高速期と低速期のふたつのフェーズ間を短時間の間に切り替わるという挙動を示した。面成長速度の値は,低速期においては純水(AFGPなし)の場合の値より小さく,高速期においては純水の場合の値より顕著に大きかった。この実験事実は,AFGPが氷結晶に対して成長抑制作用だけでなく,成長促進作用を有し,これらの作用が自発的振動成長を引き起こしている可能性を示唆している。私は,ベーサル面に対するAFGPの成長抑制および促進作用をモデル化し,ベーサル面におけるAFGPの吸着脱離と層成長との相互作用を定式化することで,過冷却度の増減に応じて成長速度に履歴効果が表れることを理論的に示した(成長ヒステリシス)[2]。さらに,結晶成長に伴う結晶化潜熱の放出と過冷却水側への熱伝導について検討し,振動成長を引き起こすために必要な過冷却度変化が生じうることも明らかにした。しかし,この理論モデルは平均場近似に基づいており,成長速度やAFGPの吸着量が時間空間的に変化する系において同様に振動が生じるかどうかはわかっていなかった。
 本研究では,ベーサル面における層成長とAFGPの吸着脱離,及び,結晶化潜熱の放出による周囲の温度場の時間変化を同時に数値計算することにより,自発的振動成長が発生するかどうかを調べた。層成長はフェーズフィールド法に基づいて計算した。AFGPの吸着脱離はモンテカルロ法に基づいて計算した。過冷却水中に含まれるAFGPは,まずベーサル面上に可逆的に吸着し,その後,氷結晶の成長によって結晶内に徐々に埋め込まれることで不可逆的な吸着状態になると想定した。そして,吸着状態の変化に応じて,AFGPは成長抑制作用と成長促進作用を発現すると仮定した。結晶化潜熱の放出に伴う氷結晶周囲の温度場の時間変化は,球対称非定常熱伝導方程式を有限体積法で計算することで求めた。これらを考慮して計算した結果,可逆吸着したAFGPが成長を抑制し,かつ,不可逆吸着したAFGPが成長を促進する作用を持つ場合に,自発的成長振動が生じることが示された。AFGPがベーサル面の成長を著しく促進するメカニズムは現時点では解明されていない。本成果は,氷結晶の成長に対するAFGPの作用について,新しい視点を与えるだろう。

参考文献:[1] Y. Furukawa et al., Sci. Rep. 7, 43157 (2017). [2] H. Miura and Y. Furukawa, J. Cryst. Growth 603, 127044 (2023).