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[MIS15-01] 年縞湖成層から復元する始新世前期/中期境界(EMET)における年~オービタルスケールの陸域気候変動: 米国ユタ州グリーンリバー層からの知見
キーワード:始新世、温室期、気候システム、太陽活動の気候影響、千年スケール、気候安定性
完新世および最終氷期における気候変動には十年~千年スケールの周期性が見られ,宇宙線生成核種(14Cや10Be)の生成量変動との相関が見られることから,太陽活動の周期変動が地球の気候変動に影響を及ぼしていた可能性が示されている(約11年周期のSchwabe cycleや約88-110年周期のGleissberg cycle,約210年周期のde Vries cycle,約1000年のEddy cycle,約2300年周期のHallstatt cycleなど; e.g., Grey, 2010; Steinhilber et al., 2012; Adolphi et al., 2014)。また完新世のBond eventや最終氷期のダンスガード・オシュガー・サイクル(DOC)のように,約1500年周期の気候変動も北大西洋や北極域などの古気候記録から報告されており,その変動は太陽活動のような外的フォーシングよりも,Bi-polar seesawのような気候システムが持つ内部振動が原因と考えられている(e.g., Bond et al., 2001; Barker et al., 2011; Darby et al., 2012; Kawamura et al., 2017)。しかし,第四紀以前においては十年~千年スケールの気候変動の解析が可能なアーカイブが限られるため,幾つかの例(中新世: Kern et al., 2013; 始新世: Lenz et al., 2017; 白亜紀後期: Ma et al., 2022)を除いて示されていない。最近Hasegawa et al. (2022)はモンゴルの白亜紀中期の年縞湖成層(シネフダグ層)を解析することにより,十年~百年スケールでは太陽活動と類似の周期性が卓越するものの,千年スケールでは太陽活動とは必ずしも整合しない準周期的な変動が見られ,白亜紀中期“温室期”に最終氷期のDOCと類似した千年スケールの急激な気候変化が起こっていた可能性を示唆した。本研究では,年縞を保存する米国ユタ州のグリーンリバー湖成層(e.g., Kuma et al., 2019)を解析することで,始新世前期/中期境界(early/middle Eocene Transition: EMET)における十年~オービタルスケールの気候変動を復元し,同時期における千年スケールの気候安定性の検証を試みた。
研究に用いた試料は,ユタ州北東部で掘削されたP4コア(約70m)である(Whiteside & van Keuren, 2009)。同コアはラミナの発達した頁岩とドロマイト層の互層からなり,介在する凝灰岩層の年代(Smith et al., 2010)から,49.02∼48.37 Maに堆積した事が分かっている。同コアが保管されているラモント地球研究所においてXRFコアスキャナー(Itrax)分析を行い,1mm間隔で元素組成変動を測定した。そして得られた元素組成変動に対してLi et al. (2018)が構築したeCOCO解析を行い,サイクル層序的検討によって堆積速度変化を算出し,時系列データに転換した。また同コアに保存されるラミナが年縞かどうかを検証するため,ラミナ層厚の計測や,蛍光顕微鏡およびEPMAを用いたラミナ組成の検討を行った。さらにラミナの蛍光度や元素組成変化を解析することで,数年~数百年スケールの周期性の検出を試みた。
eCOCO解析の結果,P4コアの堆積速度は8.0∼11.3cm/kyと算出され,堆積速度変化を補正した時系列データ(約73万年間)に転換した。また頁岩およびドロマイト質頁岩層準のラミナ層厚を計測した結果,平均層厚62.35㎛(P4コア全体では93.53㎛に相当)となり,サイクル層序解析により推定された平均堆積速度とほぼ一致することから,ラミナは年縞であると断定した。そこで年縞ラミナ約7.3㎜区間(363年間)の蛍光顕微鏡画像の解析と,EPMAを用いた微小領域元素分析により295年分の解析を行った結果,明層幅(夏季藻類生産の期間)と夏季藻類生産量,Mn/Fe比(湖底の酸化還元度)に約11年および約80-90年の周期性が見られ,太陽活動に類似した周期性(上述のSchwabe cycleとGleissberg cycle)が見られることが明らかになった。
さらにItrax分析により得られたCa/Ti(蒸発量/降雨量変化の指標)とMn/Fe(湖底の酸化還元度の指標)の時系列データに対して周期解析を行ったところ,約4万年周期の地軸傾動と約40万年周期の離心率変動の周期性が強く検出され,グリーンリバー層の古環境変動は中-高緯度の影響を受けていることが示唆された。DeConto et al. (2012)は暁新世/始新世温暖期(PETM)や始新世前期温暖期(EECO)における温暖化イベントが地軸傾動と離心率変動と対応することを示し,高緯度の永久凍土融解との関連性を指摘している。本研究の結果は始新世前期/中期境界(EMET)において北米中緯度域でも類似周期の環境変動が見られる点で興味深い。一方で千年スケールの変動はオービタルスケールの変動に比べて卓越しなかった。最近Meckler et al. (2022)は57∼54MaのPETMおよびEECOの時期には海洋鉛直循環が大きく振動しているのに対し,52∼48MaのEMETの区間は比較的安定だったことを示唆している。本研究で解析したP4コア区間の49.02∼48.37 Maに千年スケールの気候振動が見られなかったことも,海洋循環振動と関係している可能性があり,今後は気候モデルと組み合わせた詳細な検討が必要である。
研究に用いた試料は,ユタ州北東部で掘削されたP4コア(約70m)である(Whiteside & van Keuren, 2009)。同コアはラミナの発達した頁岩とドロマイト層の互層からなり,介在する凝灰岩層の年代(Smith et al., 2010)から,49.02∼48.37 Maに堆積した事が分かっている。同コアが保管されているラモント地球研究所においてXRFコアスキャナー(Itrax)分析を行い,1mm間隔で元素組成変動を測定した。そして得られた元素組成変動に対してLi et al. (2018)が構築したeCOCO解析を行い,サイクル層序的検討によって堆積速度変化を算出し,時系列データに転換した。また同コアに保存されるラミナが年縞かどうかを検証するため,ラミナ層厚の計測や,蛍光顕微鏡およびEPMAを用いたラミナ組成の検討を行った。さらにラミナの蛍光度や元素組成変化を解析することで,数年~数百年スケールの周期性の検出を試みた。
eCOCO解析の結果,P4コアの堆積速度は8.0∼11.3cm/kyと算出され,堆積速度変化を補正した時系列データ(約73万年間)に転換した。また頁岩およびドロマイト質頁岩層準のラミナ層厚を計測した結果,平均層厚62.35㎛(P4コア全体では93.53㎛に相当)となり,サイクル層序解析により推定された平均堆積速度とほぼ一致することから,ラミナは年縞であると断定した。そこで年縞ラミナ約7.3㎜区間(363年間)の蛍光顕微鏡画像の解析と,EPMAを用いた微小領域元素分析により295年分の解析を行った結果,明層幅(夏季藻類生産の期間)と夏季藻類生産量,Mn/Fe比(湖底の酸化還元度)に約11年および約80-90年の周期性が見られ,太陽活動に類似した周期性(上述のSchwabe cycleとGleissberg cycle)が見られることが明らかになった。
さらにItrax分析により得られたCa/Ti(蒸発量/降雨量変化の指標)とMn/Fe(湖底の酸化還元度の指標)の時系列データに対して周期解析を行ったところ,約4万年周期の地軸傾動と約40万年周期の離心率変動の周期性が強く検出され,グリーンリバー層の古環境変動は中-高緯度の影響を受けていることが示唆された。DeConto et al. (2012)は暁新世/始新世温暖期(PETM)や始新世前期温暖期(EECO)における温暖化イベントが地軸傾動と離心率変動と対応することを示し,高緯度の永久凍土融解との関連性を指摘している。本研究の結果は始新世前期/中期境界(EMET)において北米中緯度域でも類似周期の環境変動が見られる点で興味深い。一方で千年スケールの変動はオービタルスケールの変動に比べて卓越しなかった。最近Meckler et al. (2022)は57∼54MaのPETMおよびEECOの時期には海洋鉛直循環が大きく振動しているのに対し,52∼48MaのEMETの区間は比較的安定だったことを示唆している。本研究で解析したP4コア区間の49.02∼48.37 Maに千年スケールの気候振動が見られなかったことも,海洋循環振動と関係している可能性があり,今後は気候モデルと組み合わせた詳細な検討が必要である。