11:15 〜 11:30
[MIS15-27] 北海道網走湾のビノスガイの貝殻成長線解析と数十年規模気候変動との応答
キーワード:スクレロクロノロジー、貝殻、周期解析、AMO、PDO
AMOやPDOなどの数十年規模気候変動は, 海面水温を周期的に変化させていることが知られている. 数十年規模気候変動は, 干ばつや台風などの気象現象に直接結びつくうえ, エルニーニョ南方振動やモンスーンなどの短周期気候変動にも影響を与えると考えられている. AMOやPDOの海水温への影響は1800年代以降の継続的な海面水温の機器観測記録によって見出されてきたが, 機器計測の記録では2周期程度しか過去に遡ることができない. しかし, 数十年規模気候変動の挙動を過去に遡って知るためには, 高時間解像度かつ複数周期にわたる記録が必要である. そこで有望な古気候アーカイブのひとつが長寿二枚貝の殻である.
近年, 岩手県沿岸に生息する長寿二枚貝ビノスガイの貝殻成長線パターンがAMOと相関をもつことが報告された(Shirai et al., 2018). ビノスガイ1個体の貝殻成長線の記録は100年程度であるが, 複数個体の貝殻成長線パターンを繋ぐことで, 過去に遡って気候変動を復元することができる(Kubota et al., 2021). もしAMOの影響が太平洋に届いていたならば, その影響は岩手県のみならず他の沿岸に生息するビノスガイの貝殻にも記録されていると予想できる. そこで本研究では, 北海道網走湾から採集されたビノスガイの貝殻成長線解析を行い, 数十年規模気候変動や水温の変動との関係を調べることを目的とした.
北海道網走湾は太平洋に開口する水深12メートル程度の砂の底質をもつ湾である. 海面水温は1982年以降ほぼ毎日計測されており, 平均水温は6.8℃, 平均最高水温は20.9℃, 平均最低水温は-1.8℃, 年間の水温は-5℃から23℃の範囲で変化する. この湾には, ビノスガイやウバガイなどの冷水を好む二枚貝が生息することが知られている.
北海道網走湾から採取されたビノスガイの貝殻は, 一度冷凍した後に解凍して軟体部を取り除いて洗浄し, 自然乾燥した. 次に電子ノギスで殻長・殻高・殻幅を計測した後, 最大成長軸に沿って切断して厚片を作成し, 断面を鏡面研磨した. 厚片は東京大学大気海洋研究所のKEYENCE VHX-2000で100倍から300倍で撮影し, フリーソフトimageJを用いて成長線の数と幅を計測した. 成長増分幅の計測はVertical法とInterface法の両方で実施した. 次に貝殻の年成長増分幅から成長由来の成分を除去・規格化し, 環境由来の成分のみの信号を抽出した.
成長線解析の結果, 北海道網走湾のビノスガイの貝殻成長線から抽出されたクロノロジーSGIは, PDOとは相関がみられなかったが(ピアソン相関係数 -0.25以下), 水温の変動と相関し(ピアソン相関係数 0.77以上), AMOとも相関がみられた(ピアソン相関係数 0.74以上). この相関関係は, 貝殻の成長増分幅の計測方法によらなかった.
岩手県のビノスガイのクロノロジーSGIと同じように北海道のビノスガイのクロノロジーSGIもAMOと相関があったということは, ①太平洋にAMOが影響を与えていたか, ②水温以外のパラメータの周期がAMOと類似した周期をもっていた可能性がある. 本研究のみでは, その物理的なメカニズムについては明らかにすることができない. 本研究で開発した手法を化石のビノスガイに応用することで, 過去の間氷期における気候変動の周期や強度を復元できるだろう.
近年, 岩手県沿岸に生息する長寿二枚貝ビノスガイの貝殻成長線パターンがAMOと相関をもつことが報告された(Shirai et al., 2018). ビノスガイ1個体の貝殻成長線の記録は100年程度であるが, 複数個体の貝殻成長線パターンを繋ぐことで, 過去に遡って気候変動を復元することができる(Kubota et al., 2021). もしAMOの影響が太平洋に届いていたならば, その影響は岩手県のみならず他の沿岸に生息するビノスガイの貝殻にも記録されていると予想できる. そこで本研究では, 北海道網走湾から採集されたビノスガイの貝殻成長線解析を行い, 数十年規模気候変動や水温の変動との関係を調べることを目的とした.
北海道網走湾は太平洋に開口する水深12メートル程度の砂の底質をもつ湾である. 海面水温は1982年以降ほぼ毎日計測されており, 平均水温は6.8℃, 平均最高水温は20.9℃, 平均最低水温は-1.8℃, 年間の水温は-5℃から23℃の範囲で変化する. この湾には, ビノスガイやウバガイなどの冷水を好む二枚貝が生息することが知られている.
北海道網走湾から採取されたビノスガイの貝殻は, 一度冷凍した後に解凍して軟体部を取り除いて洗浄し, 自然乾燥した. 次に電子ノギスで殻長・殻高・殻幅を計測した後, 最大成長軸に沿って切断して厚片を作成し, 断面を鏡面研磨した. 厚片は東京大学大気海洋研究所のKEYENCE VHX-2000で100倍から300倍で撮影し, フリーソフトimageJを用いて成長線の数と幅を計測した. 成長増分幅の計測はVertical法とInterface法の両方で実施した. 次に貝殻の年成長増分幅から成長由来の成分を除去・規格化し, 環境由来の成分のみの信号を抽出した.
成長線解析の結果, 北海道網走湾のビノスガイの貝殻成長線から抽出されたクロノロジーSGIは, PDOとは相関がみられなかったが(ピアソン相関係数 -0.25以下), 水温の変動と相関し(ピアソン相関係数 0.77以上), AMOとも相関がみられた(ピアソン相関係数 0.74以上). この相関関係は, 貝殻の成長増分幅の計測方法によらなかった.
岩手県のビノスガイのクロノロジーSGIと同じように北海道のビノスガイのクロノロジーSGIもAMOと相関があったということは, ①太平洋にAMOが影響を与えていたか, ②水温以外のパラメータの周期がAMOと類似した周期をもっていた可能性がある. 本研究のみでは, その物理的なメカニズムについては明らかにすることができない. 本研究で開発した手法を化石のビノスガイに応用することで, 過去の間氷期における気候変動の周期や強度を復元できるだろう.