日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)、座長:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)

11:30 〜 11:45

[MIS15-28] ハワイ産現生サンゴ骨格コアのSr/Ca比と窒素同位体比を用いた百年間の古環境復元

*内山 遼平1,2山崎 敦子2,3,4、野尻 太郎5、カン サミュエル1,2,6角皆 潤3渡邊 剛1,2,4 (1.北海道大学理学院、2.喜界島サンゴ礁科学研究所、3.名古屋大学大学院環境学研究科、4.総合地球環境学研究所、5.北海道大学理学部、6.ハワイ大学マノア校)


キーワード:ハワイ、サンゴ骨格、Sr/Ca比、窒素同位体比

ハワイの位置する北太平洋には, 水温や栄養塩に数年から数十年規模の変動パターンが生じていることが知られている. 広大な海洋における気候変動を大陸から離れた位置で捉えるために, ハワイは重要なフィールドであるが, 現場観測による長期間記録は数が少ない.
造礁サンゴ骨格(CaCO3)中の組成は, 生育した環境を記録することが知られており, 過去の海洋環境を高い時間分解能で復元することが可能である.サンゴ骨格中のストロンチウム/カルシウム比(Sr/Ca比)は海水温と負の相関をもつことから, 過去の水温復元に用いることができる. また, サンゴ骨格に含まれる有機物中の窒素同位体比(δ15Ncoral)は, 栄養塩のトレーサーとして海水の動態を調べるのに用いることができる. 本研究では, サンゴ骨格を用いた地球化学的アプローチによって, 近百年間のハワイ近海における水温と栄養塩の変動を明らかにすることを目的とした.
本研究では試料として, ハワイオアフ島の2地点(東部, 西部)で採取された現生ハマサンゴの骨格試料を用いた. スラブ状に加工した骨格をX線照射することで年輪を確認し, 最大成長方向に沿った0.2 ~ 0.4 mm間隔で粉末試料を採取し, 誘導結合プラズマ発光分析器(ICP-OES)を用いてSr/Ca比を測定した. 各粉末試料の日付は, 測線に沿ったSr/Ca比の極大(小)値を, 時系列に沿った水温変動の極小(大)値と結び合わせることで推定できる. サンゴ骨格中のSr/Ca比と, サンゴ近傍で測定されたロガー水温を参照して導出した温度換算式を用いて, 西部からは70年, 東部からは100年間の水温を復元した. その結果, 共通期間の1957年から2015年にかけて東部と西部の水温の差には±2℃の振幅をもつ数年~数十年規模の変動があることがわかった. 水温の東西差は北東風の強度(m/s)と相関をもっており, 北東風が強(弱)い時には風上(風下)にあたるオアフ島の東(西)部で水温が高いという傾向があった. 風下における湧昇などが風の強度の変化によって数十年規模で引き起こされている可能性があると考え, δ15Nの分析を行なった. Sr/Ca比(水温)変動から推定した時系列に沿って骨格試料を各一年分切り出した. サンゴ骨格試料を塩酸で脱灰し, 残留有機物を酸化分解した後, 全窒素をNO3-に酸化し, Chemical conversion法を用いてNO3-からN2O化した試料を連続フロー型質量分析システムに導入し, δ15Ncoralを測定した. オアフ島西部サンゴのδ15Ncoralは70年の間に平均+4.2‰ (±1.5‰, 1σ)の値をとり, 数年規模の変動が現れた.
本発表では, 東部サンゴの100年間のδ15Ncoralの結果も含めて, サンゴ骨格中Sr/Ca比と窒素同位体比を用いて, 近百年間のローカルな気候変動が, どのように北太平洋の大気-海洋相互作用を受けているかを議論する.