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[MIS15-P01] ジュラ紀Toarcian海洋無酸素事変における天文学的周期の深海酸化還元度変動
キーワード:古気候、海洋無酸素事変
現在、地球温暖化に伴い貧酸素化が起こっているが、地質時代にも温暖化で海洋無酸素事変が発生した。大量絶滅で化石多様性が最低となる前期ジュラ紀Toarcianには火成活動で大気CO2濃度が急増し、温暖化で北極氷床が大規模に融解して海洋無酸素事変(The early Toarcian Oceanic Anoxic Event;T-OAE)が発生した。同時期の炭素同位体比(δ13C)の周期的な変動から日射変化に伴うメタン放出が提唱されているが、その海洋酸化還元度への影響は未解明である。本研究では低緯度深海堆積物である美濃帯坂祝セクションの層状チャートを対象として、薄片観察、走査電子顕微鏡(SEM)、電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)、Image Jを用いた微細構造観察を行い、生痕化石と黄鉄鉱の産状からから底層水と中層水の酸化還元度推定を試み、その卓越周期から全球的な海洋環境変動とその生態系への影響を検討した。その結果、底生生物活動度にはPl/To境界では約100 mm、T-OAEでは約20, 約30,約50, 約130,約200 mm周期がみられ、化石層序から平均堆積速度が約1 mm/千年であることから、これらの卓越周期は約2万年、4万年、10万年のミランコビッチサイクルに対応する。さらに、T-OAEではδ13C低下時期に黒色泥岩に葉理が発達し、チャートでは生物擾乱が卓越した。氷期スケールでは、低緯度底層水の酸化還元状態は、氷床の拡大縮小に伴う極域からの沈み込み速度変化の影響が大きく、また放散虫生産量は南北温度勾配変化に伴う貿易風強度の影響が大きい。そのため、ミランコビッチサイクルに伴う雪氷圏メタン放出・吸収や氷床の縮小、拡大と関連した海洋循環や大気循環の変化が低緯度深海の酸化還元度や放散虫生産に影響を与え、葉理が発達した黒色泥岩と生物擾乱の発達したチャートが堆積した可能性がある。このような数万年から10万年スケールの天文学的周期の大規模海洋環境変動が、化石生物多様性の回復の遅れの要因となった可能性がある。