日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P03] IODP Site U1516に記録された南半球高緯度域における白亜紀Mid-Cenomanian Event

*長谷川 卓1、小宮 啓路2 (1.金沢大学地球社会基盤学系、2.金沢大学自然科学研究科)

キーワード:白亜紀、炭素同位体、セノマニアン


白亜紀中期のセノマニアン期(100.5-93.9 Ma)は,海水準,平均気温,二酸化炭素濃度が高いことから非常に温暖な気候であった.セノマニアン/チューロニアン期境界では海洋無酸素事変2(OAE2)と呼ばれる白亜紀の中でも特に顕著な炭素循環の激変イベントが発生し,それに伴う大きな炭素同位体比(δ13C)エクスカーションが世界各地のセクションや深海コアから確認されている.このイベントの約200 万年前には小規模だが明瞭なδ13Cの正のエクスカーションが多地域で確認されており,Middle Cenomanian Event(MCE)と呼ばれる.OAE2に関する研究は数多くある一方でMCE に焦点を当てた研究は比較的少ない上、それらの大部分はテチス海域の低-中緯度域に集中している.南半球,特に高緯度では研究報告例が非常に少ない.本研究ではMCEに相当する時代の南半球高緯度域の情報を抽出するため,IODP Exp. 369, Site U1516の試料の化学分析を行った.まずMCE の層序的指標となるδ13C のピーク検出・同定を行い,次に同海域にMCE に伴う環境変化があったのかどうか,あったならばそれはいかなるものか,を明らかにする.
研究試料はSite U1516C, 34R-36Rを用いた.有機炭素同位体比(δ13Corg)、全有機炭素(TOC)、炭酸塩炭素同位体比(δ13Ccarb),酸素同位体比(δ18O)、炭酸塩含有量(%CaCO₃)およびバイオマーカー分析を行った.
 2種の炭素同位体比変動,すなわちδ13Corg,δ13Ccarb変動は明瞭に並行して変動し,扱った範囲のほぼ中央で正のエクスカーションを示し,488 m 付近にてダブルピークが確認された.これは先行研究によるMCEの特徴に一致する(Jarvis et al., 2006, Geol. Mag.).MCE近傍で起源の異なるδ13Corgとδ13Ccarbの両方でδ13C層序を構築し,それが見事に同調した非常に貴重な例となった.δ18Oは約10万年と推定される周期性をもち,δ13C のダブルピークの中間の層準で極小値を示し,その上位で緩やかに正方向へシフトする.MCE前後で表層水温変動が増幅され,MCE極相期にて最も表層海水温が高くなったことを示唆する.
 ハプト藻由来バイオマーカーであるC40アルケノンが検出されたが,MCEを跨いで明瞭な増減を示さず安定していた.同様に%CaCO3もこの範囲では安定していた.このような表層環境が安定していたことが,δ13Corgとδ13Ccarbの同調的変動をノイズが少ない状態で捉えることができた一因と考えられる.