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[MIS15-P04] 白亜紀セノマニアン期後期の長鎖アルケノンの層序変動とその意義
キーワード:アルケノン、バイオマーカー、白亜紀
白亜紀後期にあたるセノマニアン期~チューロニアン期は顕性累代で最も温暖な時期として知られる。この時代には大気―海洋に埋没した海洋無酸素事変(OAE2)が生じ、関連する気候変動イベントも起こった。この時代の先行研究は低緯度地域に多く、高緯度地域のデータは少ない。また高緯度地域は低緯度地域よりも地球全体の環境変動に敏感であるためその変動を捉えやすく、全球環境の状態についてより詳細な情報を記録している可能性が高い。この古環境を理解する手法の一つにバイオマーカー分析が挙げられる。特にハプト藻網の植物プランクトンが生成する有機化合物のアルケノン類は、炭素数37 のものが代表的で二重結合を2-4か所持ち、二重結合の数が多い分子の相対比(UK’37)と、ハプト藻の生育温度(海水温)間の対応が明瞭であることから、主に新生代で古水温推定に用いられるバイオマーカーである。白亜紀では炭素数40 のアルケノンが含まれる場合があり、UK’37と同様に温度依存性があると期待されている(UK’40)。白亜紀後期南半球高緯度地域におけるUK’40は、MCE1(気候変動イベント)層準およびOAE2 層準のデータはあるものの、その間の区間では未測定であり、MCE1からOAE2にむかってどのように環境が変化していったのかはいまだわかっていない。本研究ではオーストラリア南西沖の海底コア試料を用いてこの区間の有機地球化学分析を行った。そしてUK’40連続層序変動を明らかにし、白亜紀高緯度地域の環境変動の理解を試みるとともに、古環境プロキシとしてのUK’40の潜在力を評価した。分析に用いた2つのコア試料のうち、1つのコア試料で連続的に検出されたアルケノンからUK’40連続層序変動を作成した結果、UK’40の変動はMCE1 からOAE2 にかけて南半球高緯度地域が徐々に温暖化していたことが示唆された。UK’40の変動と浮遊性有孔虫の酸素同位体比(Petrizzo et al., 2022, Paleoceanography and Pleoclimatology) の比較から、アルケノンの合成深度は海面表層ではなく表層下部の水深である可能性が示唆された。