日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P06] 北部北太平洋アラスカ沖の堆積物コアのバイオマーカー分析による過去1000万年間の海洋環境変動の復元

*星 恒太郎1、福村 朱美1沢田 健1,2 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


キーワード:藻類バイオマーカー、IODP、海洋基礎生産、アルケノン、長鎖アルキルジオール、アラスカ湾

[はじめに]中期中新世(ca. 15Ma以降)に生物源シリカの堆積場が大西洋から太平洋に移ったと考えられていて、シリカスイッチもしくはオパールシフトと呼ばれる(Cortese et al., 2004)。太平洋における新第三紀以降の海洋基礎生産の変動の解明は長時間スケールの炭素循環などを議論する上で重要であるが、大西洋と比較すると研究例は少ない。本研究で対象とするアラスカ湾は北部北太平洋高緯度地域に位置しており、外洋域は高栄養塩低生産(HNLC)海域として知られているが、沿岸域は春季から夏季にかけて珪藻を主体とする藻類ブルームが発生する海域であることが報告されている(Addison et al., 2012)。本研究ではIODP Exp.341航海でアラスカ湾(Site U1417)で得られた深海掘削コア試料を用いてバイオマーカー分析を行い、予察的結果ではあるが、後期中新世以降(〜約13Ma)における海洋表層環境および海洋基礎生産の年代変動の復元を試みた。

[試料と分析方法] 試料として、2013年に行われたIODPのExp. 341航海でアラスカ湾外洋部U1417サイト(56° 57.5’N, 147°6.5’W)から採取された深海掘削堆積物コアを用いた。凍結乾燥処理した堆積物試料を有機溶媒で抽出した後に、シリカゲルカラムによって無極性〜極性成分に分画した。すべての極性画分をGC-MSおよびGC-FIDを用いてバイオマーカー分析を行った。

[結果と考察]バイオマーカー分析の結果、長鎖アルケノン、長鎖アルキルジオール、ステロイドをはじめとする複数の藻類バイオマーカーの他、ペリレンや陸上植物トリテルペノイドをはじめとする陸源バイオマーカーが検出された。古水温復元は長鎖アルケノン指標であるUK'37及びUK37の他、長鎖アルキルジオール指標であるLDIを用いて行った。アルケノン古水温とジオール古水温のどちらもδ18O変動から推定される中新世以降の大まかな寒冷化傾向を示しつつも、Northern hemisphere glaciation (NHG)などのイベントの影響を反映した。どちらの指標も近い値を取り、同様の変動を示したことから、アラスカ湾における海洋表層の水温復元に充分適応可能であるという結果が得られた。一方でバイオマーカー濃度が検出限界以下の試料もあることから両方の指標を相補的に用いることとした。また、長鎖アルケノン、長鎖アルキルジオールに加えてC25 HBIアルカンと藻類由来のステロールであるDinosterol、Brassicasterol、Ostreasterol、Occelasterolが検出された。これらの濃度およびMass accumulation rate(MAR)から過去1000万年間の珪藻、ハプト藻、真正眼点藻、渦鞭毛藻による基礎生産変動を復元した。さらに、これらの藻類バイオマーカーから得られた海洋基礎生産と陸域からの物質供給の関連性を検討するため、菌糸由来のペリレンや植物由来テルペノイドおよびステロールの濃度変動と比較・検討した。

引用文献
Addison et al., 2012., Paleoceanography, 27, PA1206.
Cortese et al., 2004., Earth and Planetary Science Letters, 224, 509‒527.