日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P13] ダンスガードオシュガー振動の氷床依存性に関する大気海洋結合モデル研究

志村 蓮1、*阿部 彩子1國吉 優太1小長谷 貴志1陳 永利2 (1.東京大学大気海洋研究所、2.海洋研究開発機構)

キーワード:climate、気候、古気候、大西洋子午面循環、ダンスガードオシュガーイベント

最近12万年間地球規模で気候や氷床、大気中二酸化炭素(CO2)濃度が地球軌道要素とともに変化したこと(最終の氷期間氷期サイクル)が知られている。更に、最後の氷期の間、Dansgaard-Oeschger(DO)イベントと呼ばれる半球規模の急激な温度上昇を伴う気候変動イベントが数千年間隔で25回以上起きたことが地質記録から知られている。DOイベントのたびに北半球では寒冷な気候と温暖な気候の間を交代し、北半球が寒冷(温暖)な間に南半球ではゆっくり温度が上昇(下降)する。25個のDOイベントの間隔は約1,000年から5,000年ほどと幅があり、氷期のうち寒冷なMarine Isotope Stage (MIS) 2やMIS4、間氷期や比較的温暖なMIS5にはDOイベントはあまり見られないのに対し、中程度の気候状態であったMIS3では短い間隔でDOイベントが頻繁に発生していた。
多数のモデル研究や地質学的研究から、DOイベントの発生は大西洋子午面循環(Atlantic meridional overturning circulation : AMOC)の変動と密接に関係していることが示唆されており、AMOCが強い状態が北半球温暖期(DO亜間氷期)、 AMOCが弱い状態が北半球寒冷期(DO亜氷期)に対応する。AMOCの変動には、氷床融解や崩壊に伴う淡水の海洋への供給や、北大西洋の低緯度と高緯度の間の塩分の変化が当初重要と考えられたが、最新の研究では、北大西洋の海氷と対流に関係した熱的なプロセスの重要性が挙げられており、大気海洋の自励振動が数値モデルで再現され始めている。本研究で用いた大気海洋結合モデルMIROC4mでは、AMOC長時間強く継続する状態、AMOCが長時間弱く継続する状態、そしてAMOCが強弱を数千年で振動する状態の3種類のモードを得ている。これまでの実験では、それぞれ、CO2や自転軸傾斜が高い場合、中間の場合、小さい場合でこの3つの異なるモード(強いAMOCモード、振動モード、弱いAMOCモード)が得られているが、氷床地形の違いがAMOCのモードや振動に与える影響は明らかになっていない。
そこで本研究では、氷床地形がAMOCの振動に及ぼす影響を明らかにするために、気候モデルを用いた数値実験を解析し、新たな感度実験を実行する。
本研究ではMIROC4mと呼ばれる大気海洋結合モデルを使って行われた複数の実験データを用いた。氷床の高さ・広さを別々に変えた感度実験も含む20種類以上の氷床条件で行った実験の比較から、氷床地形に対するAMOCのモードの依存性を調べた。
その結果、氷床面積が増加した場合は、AMOCが長時間強い状態から振動する状態に、あるいは振動状態からAMOCが長時間弱い状態に変わる効果があることがわかった。一方、氷床高度が上昇した場合は、AMOCが長時間弱い状態から振動する状態に、あるいは振動状態からAMOCが長時間強い状態に変わる効果があることがわかった。様々のCO2濃度と氷床地形を組み合わせた複数の実験より、氷床高度が増加すると、DO振動が起こりやすいCO2濃度は低くなることがわかった。一方、氷床面積が増加すると、DO振動が起こりやすいCO2濃度は高くなることがわかった。よって、氷床の成長がDO振動の起こりやすいCO2濃度に与える効果は面積増加と高度上昇で相反していると考えられる。実際のDOサイクルの記録について考察すると、氷床の成長と共にMIS4やMIS2でDO亜氷期が長くなり振動があまり起きなかった要因の1つに、面積増加の効果があると解釈できる。