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[MIS15-P19] 河口湖の湖底堆積物のバイオマーカー分析により復元された富士山噴火に伴う湖沼環境変化
キーワード:火山噴火、一次生産、湖沼環境、富士山、富士五湖
火山噴火が気候や周辺環境に深刻な影響を及ぼすことはよく知られているが、玄武岩質火山の噴火が湖沼の環境や生態系に与える影響については未だ不明な点が多い。本研究では、日本最大の玄武岩質火山である富士山を対象に、山麓の湖底堆積物中のバイオマーカー分析を行い、噴火に伴う湖沼環境変動の復元を行った。用いた試料は、富士山北麓、河口湖の西湖盆、水深12.2 mで採取された長さ約3.4 mの堆積物コア(KG22-01)である。本コア底部付近(深度3.27-3.19 m)には、層厚8 cmのスコリア層が含まれており、近傍で採取された堆積物コア(YA-1)との比較から約2900年前に富士山北西麓で噴火した大室スコリアと推定された。堆積物試料は、有機溶媒で抽出しシリカゲルカラムで分画した各成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析した。分析の結果、藻類バイオマーカーとしてブラシカステロール、C32 1, 15-ジオール、C20 HBIアルカン等が検出された。珪藻由来のバイオマーカーであるブラシカステロール/C27ステロール比が大室スコリア堆積直後に0.50から0.39へと減少し、大室スコリアの上位11 cm付近にかけ再度増加する傾向が見られた。同様の傾向は、緑藻類のバイオマーカーであるC32ジオール/ C27ステロール比にも見られ、火山噴出物の流入に伴う透明度の低下や有害物質の溶出により一時的(50-100年程度)に生物生産が阻害された可能性が示唆された。一方、大室スコリア堆積後のC32ジオール/ C27ステロール比の長期的な変動傾向は、陸上植物起源のC29ステロール/ C27ステロール比の変動とよく一致しており、河口湖では集水域からの栄養塩流入が生産性の変化に重要な役割を果たしているものと考えられた。珪藻由来のバイオマーカーであるC20HBI/C19+C21 アルカン比は、長期的にはC32ジオールと類似した変動を示したが、大室スコリアの上位16 cmから26 cmにかけて、顕著な増加傾向を示した。C20 HBI/C19+C21 アルカン比が増加する層準では、ブラシカステロール/C27ステロール比が減少する一方、ペリレン/フェナントレン比の増加が見られ、噴火後の陸源物質の流入に伴い一時的に湖沼環境が変化した可能性がある。