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[MIS15-P23] 千葉県館山市香の沼層におけるキクメイシ属サンゴ化石を用いた古環境復元
キーワード:サンゴ、骨格成長、Sr/Ca比、Mg/Ca比、沼サンゴ層
千葉県館山市に散在する縄文海進期の海成層である沼層中には、現在の館山周辺海域の現生造礁サンゴよりも多数の造礁サンゴ種の化石骨格が発見される沼サンゴ層がある。沼サンゴ層堆積当時の古環境は貝類群集やその他の生物化石などから明らかにされつつあるが、サンゴ骨格を用いた成長パラメータおよび化学分析による古環境復元研究は未だない。館山周辺海域は日本の太平洋岸における造礁サンゴの生息北限域であり、沼サンゴ層堆積当時から現在までの古環境を理解することは、館山の現生造礁サンゴ群落を含む生態系の発達史と今後の環境変動の予測につながる。本研究では, 沼層から採取した造礁サンゴ骨格の成長パラメータと化学分析を用いて、沼サンゴ層堆積当時の古環境を定量的に復元することを目的とした。沼サンゴ層から採集された造礁性サンゴの一種であるウスチャキクメイシ Dipsastraea pallidaの群体骨格の伸長量、密度、および石灰化量を測定し、先行研究における国内複数箇所のキクメイシ属 Dipsastraeaと比較した。また、骨格の莢壁のSr/Ca比およびMg/Ca比をICP-OESによって測定し、先行研究によって作成されたSr/Ca-SST関係式を用いて沼サンゴ層堆積当時の海面水温 (Sea-Surface Temperature: SST) を復元した。その結果、沼層のウスチャキクメイシの年平均伸長量は亜熱帯産、密度・石灰化量は温帯産のキクメイシ属サンゴに類似する値であった。この結果は、沼サンゴ層におけるキクメイシ属サンゴの生息環境が波浪エネルギーの低い温帯性の造礁サンゴ群集であったことを示す。また、復元した年平均SSTは約21.3℃と現在の紀伊半島と同程度であり、現在の館山における年平均SST約18.5℃よりも高かった。