日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P25] バイオマーカーからみた中国河姆渡文化期の気候・植生変化

*権田 拓弥1山本 正伸1、金原 正明2 (1.北海道大学、2.奈良教育大学)


キーワード:河姆渡遺跡、稲作、古気候

河姆渡文化(Hemudu Culture)は、中国長江下流域に7000年前から5500年前に栄えた稻作を伴う新石器時代の文化である.Patalano et al. (2015)は田螺山遺跡近傍のトレンチ試料に含まれる長鎖脂肪酸の炭素・水素同位体比(δ13C, δD)とプラントオパール量にもとづき,稻作が周辺環境の乾燥化を契機に始まったと主張した.本研究では,田螺山遺跡近傍および河姆渡遺跡北方のボーリングコア試料中に含まれる長鎖脂肪酸のδ13CおよびδD,燃焼起源化合物の多環芳香族炭化水素(PAH),イネ科植物起源の5環トリテルペンメチルエーテル(PTME),ブランチ型グリセロールジアルキルグリセロールテトラエーテル(GDGT)の分析を行い,稻作開始前後の長江下流域の古気候復元,環境復元を行った.
 田螺山遺跡コアでは,下位から海成あるいは汽水成の泥層,1枚目の稲田土壌層(7000-6400年前),泥層(6400-6300年前,海生珪藻含む),2枚目の稲田土壌層(6300 年前以降)からなる.河姆渡遺跡北方コアでは,2枚目の稲田土壌層を欠いているが似た層序を示す.両コアのバイオマーカーおよびその同位体比も似た変化を示した.稻田土壌層では燃焼起源PAHとイネに由来するアルンドインとシリンドリンのPTME全体に対する割合(すなわちイネ科植物におけるイネの割合)が極大を示した.その上位の泥層ではPAH濃度は低く,アルンドインとシリンドリンのPTME全体に対する割合も低かった.2枚目の稲田土壌層で,再びPAH濃度は高くなり,アルンドインとシリンドリンのPTME全体に対する割合も高くなった.この岩相変化に対応して長鎖脂肪酸のδ13C, δDも変化しており,稲田土壌層ではδ13Cが低く,C3植物が主体であり,δDも低く,夏季降水量が高かったことが示唆された.堆積速度の大きな河姆渡遺跡北方コアで詳細な変化をみると,1枚目の稲田土壌層が形成される前に寒冷化,湿潤化し,稲田形成後に温暖化,乾燥化が進行し,イネの割合が減少した.このような稻作と気候変化の関係に着目すると,稻作は乾燥化ではなく,むしろ湿潤化を契機に開始されたようにみえる.また稻作の中断あるいは終了は海進による稲田の水没(田螺山遺跡)か乾燥化(河姆渡遺跡)の結果として生じたことが推察される.