日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P32] 造礁サンゴ骨格の炭素同位体比による黒潮流域の人為起源二酸化炭素吸収量の復元

*山崎 敦子1渡邊 剛2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:Coral skeletons、Kuroshio、carbon isotopes、nitrogen isotopes、CO2 sink

黒潮とその続流域は、二酸化炭素分圧の低い水塊が北上することにより冷却され、北太平洋における二酸化炭素の吸収域となっている。近年、化石燃料由来の低い炭素同位体比をもつ二酸化炭素の放出により、海水中のDICの炭素同位体比が減少しており(Suess効果)、造礁サンゴや硬骨海綿の骨格の炭素同位体比は海洋への人為起源の二酸化炭素の海洋への吸収量の変遷を捉えるために利用されてきた。
黒潮や北大西洋のメキシコ湾流に代表される強流帯には栄養塩濃度の高いNutrient Stream(高栄養塩帯)が伴うことが報告されており,流域表層の栄養塩の起源の一つとなっている。Yamazaki et al (2016)では、高知県土佐清水市竜串湾の造礁サンゴ骨格中の有機物の窒素同位体比を用いて、過去150年間の黒潮流量を復元した。黒潮の北側縁辺部で発生する乱流が亜表層水と共に巻き上げる亜表層の硝酸供給の影響を受け、サンゴ骨格の窒素同位体比は流量とともに変化していることを明らかにした。本研究では同じ造礁サンゴ骨格コアを用いて炭酸塩骨格の炭素同位体比の分析を行い、黒潮流域における二酸化炭素の吸収量の変遷を明らかにすることを目的とする。
造礁サンゴコアを板状に成形し、軟X線画像によって年輪を観察した。その最大成長軸に沿ってマイクロドリルを用いて0.2 mm間隔で切削を行い、微小粉末試料を採取した。粉末試料を、炭酸塩前処理装置を接続した安定同位体比質量分析計で酸素・炭素同位体比を分析した。酸素同位体比の季節変動と年輪の観察によって時間軸を決定した。
その結果、過去70年間の竜串湾の造礁サンゴ骨格の炭素同位体比変動が得られた。造礁サンゴ骨格の炭素同位体比は顕著なSuess効果により1920年代後半から2000年代前半にかけて、約-0.5‰減少していた。造礁サンゴの炭素同位体比の振幅は数十年規模で大きく変化していた。窒素同位体比の経年変動は約25年周期で黒潮流量が変動していることを示唆しており、二酸化炭素の吸収量もまた同様に黒潮流量により変動している可能性がある。窒素同位体比の経年変動と炭素同位体比の経年変動からSuess効果を取り除いたアノーマリー値の変化を比較した結果、黒潮流量が増大する時に、炭素同位体比が減少する傾向があった。よって黒潮流量の増大時に亜表層水が供給され、栄養塩供給と二酸化炭素の吸収が同時に起こっている可能性を示唆した。