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[MIS15-P33] 地球上のアナログサイトの地形と鉱物証拠から火星の地下氷分布と表層環境の変遷を推定する
キーワード:地球アナログ、火星、表層環境、地下氷
約40億年前の火星は厚い大気と海が存在する温暖湿潤な環境であり,現在の地球と類似した生命が存在可能な環境(ハビタブル環境)が広がっていたことが分かっている。一方で,約35億年前の磁気圏消失と大気散逸により,火星は表層に液体の水が存在しない極寒で乾燥した砂漠環境となった。しかし,過去に火星表層に存在した液体水の一部は,極域氷床や中-高緯度域の地下氷として現存していると考えられている。さらに最近の研究により,火星の極域氷床には氷底湖が存在する可能性や(Orosei et al., 2018),高緯度域には高濃度な塩水が液体で準安定的に存在する可能性(Rivera-Valentin et al., 2020)が指摘され,火星は現在もハビタブル環境を保持する可能性があるという新しい描像が示されている。本発表では,我々が火星と類似の環境が存在する地球上のアナログサイト(モンゴル)を対象に進めている調査により,火星の地下氷分布や表層環境に関して得られた研究成果の一部を紹介する。さらに,火星との比較で進めてきた研究により,地球の過去の表層環境復元にも繋がった知見についても紹介する。
研究対象の1つは,地下氷の存在により永久凍土地帯などに形成される周氷河地形,熱収縮ポリゴン地形(多角形土)である。熱収縮ポリゴンは,凍土が凍結融解を繰り返すことで形成される,直径数m〜数十mの多角形の割れ目地形で,地球と火星の両方で様々な研究が行われており,場所毎に多様な形状を持つことが報告されている(Marchant & Head, 2007; Levy et al., 2009)。地球では,温暖化に伴う永久凍土の融解により,割れ目部の氷楔(Ice wedge)の減衰に伴ってアラスカの熱収縮ポリゴン地形の形状が「中央低下型」から「中央上昇型」に変化することも観測されている(Liljedahl et al., 2016)。一方で,火星の熱収縮ポリゴンの形状が緯度・経度毎にどのような分布パターンを持つかは十分な検討がなされていない。火星に現存する地下氷の分布や量を推定することは,NASAが2040年代に計画している火星有人探査においての水資源にもなるため重要である。そこで本研究では,火星中緯度域のアナログサイトとなる,永久凍土南限域に位置するモンゴル北部で熱収縮ポリゴンの現場探査を行い,地形形状の成因を考察した。そして火星有人探査候補地となっている地下氷分布の南限域(30°-42°N)を対象に,高解像度衛星画像(HiRISE: 空間解像度1pixl 30 cm)を用いて地形探査を行い,周氷河地形の分布パターンから火星のどの緯度・経度領域に現存地下氷が存在するかの推定を行った。さらに火星のGCM結果(Madeleine et al., 2009)との比較から,過去の高地軸傾斜期の氷拡大期から現在にかけて,地下氷分布がどのように変化したかの推定に繋がった(Sako et al., JpGU2023)。
もう一つの研究対象は,砂漠乾燥地帯の塩湖環境で見られる,乾燥収縮により形成される乾裂ポリゴン地形である(Dang et al., 2018)。乾裂ポリゴンは上述の熱収縮ポリゴンと大きさや多角形の割れ目構造を持つ点など共通する部分があるが,成因の違いから割れ目構造は直線状ではないなど違いが見られる。乾裂ポリゴンは,火星の太古(ノアキス紀やヘスペリア紀)の湖成層の表面にも見られ(El-Maarry et al., 2013),リモセン探査により塩化物や硫化物を含むことから,地球と同様に塩湖環境で形成されたことが示されている。一方で,我々の衛星画像(HiRISE)探査により,70°∼75°Nの高緯度域においても乾裂ポリゴンが広域的に分布することが明らかになった。同領域ではCrater-floor polygonと呼ばれるクレーターの底に見られる特徴的なポリゴン地形が分布することが知られており(El-Maarry et al., 2014),発見した乾裂ポリゴンはこれと付随するものである。この乾裂ポリゴン地形の形成には,地球上の砂漠乾燥地帯に見られる塩湖と同様に,少なくとも一時的に表層に液体水が存在したことを示唆する。興味深いことに,発見した乾裂ポリゴンは火星が液体の水を失った後の時代(アマゾニア紀)の時代に形成されたことを示しており,アマゾニア紀に火星表層に液体の水が存在していた可能性を示唆する。そこでリモセン探査と併せることで,火星高緯度域に見られる乾裂ポリゴンの成因解明を進めている(千々岩ほか, JpGU2023)。
研究対象の1つは,地下氷の存在により永久凍土地帯などに形成される周氷河地形,熱収縮ポリゴン地形(多角形土)である。熱収縮ポリゴンは,凍土が凍結融解を繰り返すことで形成される,直径数m〜数十mの多角形の割れ目地形で,地球と火星の両方で様々な研究が行われており,場所毎に多様な形状を持つことが報告されている(Marchant & Head, 2007; Levy et al., 2009)。地球では,温暖化に伴う永久凍土の融解により,割れ目部の氷楔(Ice wedge)の減衰に伴ってアラスカの熱収縮ポリゴン地形の形状が「中央低下型」から「中央上昇型」に変化することも観測されている(Liljedahl et al., 2016)。一方で,火星の熱収縮ポリゴンの形状が緯度・経度毎にどのような分布パターンを持つかは十分な検討がなされていない。火星に現存する地下氷の分布や量を推定することは,NASAが2040年代に計画している火星有人探査においての水資源にもなるため重要である。そこで本研究では,火星中緯度域のアナログサイトとなる,永久凍土南限域に位置するモンゴル北部で熱収縮ポリゴンの現場探査を行い,地形形状の成因を考察した。そして火星有人探査候補地となっている地下氷分布の南限域(30°-42°N)を対象に,高解像度衛星画像(HiRISE: 空間解像度1pixl 30 cm)を用いて地形探査を行い,周氷河地形の分布パターンから火星のどの緯度・経度領域に現存地下氷が存在するかの推定を行った。さらに火星のGCM結果(Madeleine et al., 2009)との比較から,過去の高地軸傾斜期の氷拡大期から現在にかけて,地下氷分布がどのように変化したかの推定に繋がった(Sako et al., JpGU2023)。
もう一つの研究対象は,砂漠乾燥地帯の塩湖環境で見られる,乾燥収縮により形成される乾裂ポリゴン地形である(Dang et al., 2018)。乾裂ポリゴンは上述の熱収縮ポリゴンと大きさや多角形の割れ目構造を持つ点など共通する部分があるが,成因の違いから割れ目構造は直線状ではないなど違いが見られる。乾裂ポリゴンは,火星の太古(ノアキス紀やヘスペリア紀)の湖成層の表面にも見られ(El-Maarry et al., 2013),リモセン探査により塩化物や硫化物を含むことから,地球と同様に塩湖環境で形成されたことが示されている。一方で,我々の衛星画像(HiRISE)探査により,70°∼75°Nの高緯度域においても乾裂ポリゴンが広域的に分布することが明らかになった。同領域ではCrater-floor polygonと呼ばれるクレーターの底に見られる特徴的なポリゴン地形が分布することが知られており(El-Maarry et al., 2014),発見した乾裂ポリゴンはこれと付随するものである。この乾裂ポリゴン地形の形成には,地球上の砂漠乾燥地帯に見られる塩湖と同様に,少なくとも一時的に表層に液体水が存在したことを示唆する。興味深いことに,発見した乾裂ポリゴンは火星が液体の水を失った後の時代(アマゾニア紀)の時代に形成されたことを示しており,アマゾニア紀に火星表層に液体の水が存在していた可能性を示唆する。そこでリモセン探査と併せることで,火星高緯度域に見られる乾裂ポリゴンの成因解明を進めている(千々岩ほか, JpGU2023)。