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[MIS16-P07] 九州地方太平洋沿岸地域における古津波堆積物
キーワード:津波数値シミュレーション、日向灘
九州地方東部沿岸地域が面する日向灘では,マグニチュード7クラスの地震は頻発しているものの,歴史上はマグニチュード8を超える巨大地震は発生していない.しかしながら,この地域では歴史記録が過去400年程度しか残されていないことに加え,津波堆積物などの地質調査も進んでいないため,数千年スケールといった低頻度で発生する巨大地震・津波の履歴を見落としている可能性がある.本発表では,大分県佐伯市,宮崎県延岡市島浦島,宮崎県串間市の沿岸低地で実施した掘削調査および津波数値計算の結果を報告する.
大分県佐伯市では,隣り合う2つの沿岸湿地において,深度4.5〜6.5 mまでの堆積物コアを合計8地点で採取した.両湿地の同一層準に連続的に分布する1枚の砂層が認められ,砂層が級化構造を伴う複数のsub-layerによって特徴づけられることから,この砂層を津波堆積物と解釈した.OxCalのPhaseモデルを用いて,津波堆積物の形成年代を6350~6710 cal. yr BPと推定した.また,どちらの湿地でも有機質泥層が連続して堆積していたが,この砂層以外には津波堆積物の可能性があるイベント層は認められなかった.
宮崎県延岡市島浦島の沿岸湿地では,深度2.7 mまでの堆積物コアを合計9地点で採取した.採取した堆積物コアは,主に有機質泥層から構成されており,表層に層厚10~35 cmの砂質泥層が平面的に連続して存在している.この層は内陸方向に含泥率が増加し,細粒化の傾向が見られることから,海側からの水流によって形成された可能性がある.しかしながら,現時点では津波堆積物であるかどうか十分な証拠は得られていない.また,表層の砂質泥層より下位では肉眼で明瞭に観察されるイベント層は認められなかった.表層の砂質泥層については今後津波堆積物であるかどうかの検討が必要であるが,島浦島の沿岸湿地には過去数千年間にわたって津波遡上の痕跡が存在していない可能性も十分に考えられる.数値計算の結果,1662年寛文日向灘地震(Ioki et al., 2022)および1707年宝永地震(Furumura et al., 2011)モデルともに調査地域への浸水は見られなかった.一方,内閣府による日向灘を含む南海トラフでの最大クラスを想定した巨大地震(Mw 9.1;Mulia et al., 2017)全11モデルでは,大すべり域の場所に関わらず湿地が広く浸水する結果となった.
宮崎県串間市永田では,約4600年前に形成された津波堆積物が1層報告されている(Yamada et al., 2020).本研究では,この掘削地点から約7 km東方に位置する串間市都井の沿岸低地において,永田で報告された津波堆積物の広がりを確認するため掘削調査を実施した.現時点では3地点で堆積物コアを採取しており,深度7 mまでの堆積物コアから永田の沿岸低地とほぼ同一の深度に1層の津波堆積物が認められた.このことは,串間市の複数地域が浸水する津波が過去に発生していたことを示している.数値計算の結果,1662年寛文日向灘地震,1707年宝永地震,1968年日向灘地震(柿沼ほか,2013)モデルの全てで永田と都井の沿岸低地への浸水は見られなかった.南海トラフの最大級巨大地震を想定したモデルでは,都井の沿岸低地は全11モデルで浸水するが,永田の沿岸低地は日向灘に大すべり域を設定した2モデルでのみ浸水が見られた.
本研究の調査によって,九州地方東部沿岸地域では津波堆積物と考えられるイベント層が北部(佐伯市および島浦島)で1〜2層,南部(串間市)で1層存在していることが明らかになった.四国や紀伊半島などの南海トラフ沿岸地域(例えば,Shimada et al., 2019:徳島県の沿岸低地で9層の津波堆積物を報告)と比較すると,津波堆積物の数に大きな差がある.また,島浦島には過去数千年間にわたって津波が到達していない可能性があり,かつ南海トラフ最大クラス巨大地震モデルでは湿地が広く浸水することを考えると,過去にこの想定のような超巨大地震は発生していない可能性が高い.一方,九州地方南部沿岸の串間市に認められる約4600年前の津波堆積物に関して,近い年代を示す津波堆積物は九州地方北部沿岸地域には認められなかった.また,歴史時代に発生した日向灘地震や南海トラフ地震に伴う津波でも沿岸低地が浸水しなかったことからも,この堆積物を形成した津波は,日向灘南部で独立して発生した未知の地震に起因すると考えられる.
大分県佐伯市では,隣り合う2つの沿岸湿地において,深度4.5〜6.5 mまでの堆積物コアを合計8地点で採取した.両湿地の同一層準に連続的に分布する1枚の砂層が認められ,砂層が級化構造を伴う複数のsub-layerによって特徴づけられることから,この砂層を津波堆積物と解釈した.OxCalのPhaseモデルを用いて,津波堆積物の形成年代を6350~6710 cal. yr BPと推定した.また,どちらの湿地でも有機質泥層が連続して堆積していたが,この砂層以外には津波堆積物の可能性があるイベント層は認められなかった.
宮崎県延岡市島浦島の沿岸湿地では,深度2.7 mまでの堆積物コアを合計9地点で採取した.採取した堆積物コアは,主に有機質泥層から構成されており,表層に層厚10~35 cmの砂質泥層が平面的に連続して存在している.この層は内陸方向に含泥率が増加し,細粒化の傾向が見られることから,海側からの水流によって形成された可能性がある.しかしながら,現時点では津波堆積物であるかどうか十分な証拠は得られていない.また,表層の砂質泥層より下位では肉眼で明瞭に観察されるイベント層は認められなかった.表層の砂質泥層については今後津波堆積物であるかどうかの検討が必要であるが,島浦島の沿岸湿地には過去数千年間にわたって津波遡上の痕跡が存在していない可能性も十分に考えられる.数値計算の結果,1662年寛文日向灘地震(Ioki et al., 2022)および1707年宝永地震(Furumura et al., 2011)モデルともに調査地域への浸水は見られなかった.一方,内閣府による日向灘を含む南海トラフでの最大クラスを想定した巨大地震(Mw 9.1;Mulia et al., 2017)全11モデルでは,大すべり域の場所に関わらず湿地が広く浸水する結果となった.
宮崎県串間市永田では,約4600年前に形成された津波堆積物が1層報告されている(Yamada et al., 2020).本研究では,この掘削地点から約7 km東方に位置する串間市都井の沿岸低地において,永田で報告された津波堆積物の広がりを確認するため掘削調査を実施した.現時点では3地点で堆積物コアを採取しており,深度7 mまでの堆積物コアから永田の沿岸低地とほぼ同一の深度に1層の津波堆積物が認められた.このことは,串間市の複数地域が浸水する津波が過去に発生していたことを示している.数値計算の結果,1662年寛文日向灘地震,1707年宝永地震,1968年日向灘地震(柿沼ほか,2013)モデルの全てで永田と都井の沿岸低地への浸水は見られなかった.南海トラフの最大級巨大地震を想定したモデルでは,都井の沿岸低地は全11モデルで浸水するが,永田の沿岸低地は日向灘に大すべり域を設定した2モデルでのみ浸水が見られた.
本研究の調査によって,九州地方東部沿岸地域では津波堆積物と考えられるイベント層が北部(佐伯市および島浦島)で1〜2層,南部(串間市)で1層存在していることが明らかになった.四国や紀伊半島などの南海トラフ沿岸地域(例えば,Shimada et al., 2019:徳島県の沿岸低地で9層の津波堆積物を報告)と比較すると,津波堆積物の数に大きな差がある.また,島浦島には過去数千年間にわたって津波が到達していない可能性があり,かつ南海トラフ最大クラス巨大地震モデルでは湿地が広く浸水することを考えると,過去にこの想定のような超巨大地震は発生していない可能性が高い.一方,九州地方南部沿岸の串間市に認められる約4600年前の津波堆積物に関して,近い年代を示す津波堆積物は九州地方北部沿岸地域には認められなかった.また,歴史時代に発生した日向灘地震や南海トラフ地震に伴う津波でも沿岸低地が浸水しなかったことからも,この堆積物を形成した津波は,日向灘南部で独立して発生した未知の地震に起因すると考えられる.