日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 地球科学としての海洋プラスチック

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)、座長:川村 喜一郎(山口大学)

11:00 〜 11:15

[MIS17-07] 別府湾海底に堆積するマイクロプラスチック量の数値計算ー1993年,2004年,2013年夏季の比較ー

*日向 博文1、笠毛 健生1、真瀬 充臣1、松浦 由依1加 三千宣1、槻木 玲美2 (1.愛媛大学、2.松山大学)

キーワード:マイクロプラスチック、沈降過程モデル、バイオフィルム、湾内滞留時間

毎年数百万トンのプラスチックが海洋に流出しており(Meijer et al., 2021),サイズ,形状やポリマータイプに応じて様々な影響を海洋生態系に与えている (MacLeod et al., 2021)。将来の生態系影響を予測するには,まず,海洋プラスチックの長期動態を数値モデルで再現する必要がある。特に,海洋環境を構成する様々なレザバー(海岸,海底,海水,生態系など)内のストックとレザバー間のフラックスの再現が重要となる。ただし,長期間の再現計算用の検証データは北太平洋や北大西の表層など一部を除いて極めて限られている。
海洋に流出したプラスチックは,様々な要因によって微細化する。2 mm以下のサイズになると1) バイオフィルム形成による比重の変化,2) 凝集体あるいは3) 糞粒への取り込みによって沈みやすくなる (van Sebille et al., 2020; Hinata et al., 2023)。海底は海洋プラスチックのシンクの一つであり(Woodall et al., 2014),静穏な海底は,過去の海洋プラスチック動態に関する記録媒体となり得る。ただし,正確な年代測定のためには,ある程度の底質自体の堆積速度が必要となる (Hinata et al., 2023)。
別府湾湾奥(最大水深70 m)は,この条件を満たす数少ない海域である (Kuwae et al., 2022)。Hinata et al. (2023) は,1940年から2015年までの75年間のマイクロプラスチック(0.3 mm–5.0 mm)堆積フラックスの変遷を13本のコア解析(マイクロプラスチック解析:11本,年代測定:1本 (Takahashi et al., 2020) ,クロロフィルa解析:1本 (Tsugeki et al., 2017))から明らかにした。1958.8–1961.0年の堆積層から最初の ポリプロピレン破片が発見された。以降,堆積フラックスは,長期間で見ると線形的に増加しつつ,1990年代初頭と2010年代に極大値(線形トレンドからの偏差)を持つ約20年周期変動が重なる形となっていた。さらに,この周期的な変動はクロロフィルa堆積フラックス偏差(線形トレンドからの偏差)と有意な正の相関を示した。この相関関係は,現在提案されている上記1)–3)のマイクロプラスチック沈降メカニズムを支持する結果となった。ただし,観測結果はあくまでも相関関係を示していることに注意が必要である。
本研究では,別府湾を対象に,マイクロプラスチック堆積フラックス偏差が極大値を取った1990年代初頭(1993年)と2010年代(2013年),および極小値を記録した2000年代中期(2004年)の夏季(7月)におけるマイクロプラスチック堆積フラックスの再現計算,具体的には,粒子追跡法を用いたバイオフィルム形成(ここでは植物プランクトンの付着)による比重増加を考慮したマイクロプラスチックの動態計算を行った。ポリマータイプはポリエチレンを仮定した。計算対象領域は瀬戸内海全域,流動モデルはPrinceton Ocean Model(水平格子サイズ:450 m,鉛直10層),低次生態系モデルはNPZDモデル(例えば中田, 1993),マイクロプラスチック表面でのバイオフィルムの付着過程および沈降速度の計算にはKooi et al. (2017)のモデル,さらに抗力係数の計算にはDioguardi et al. (2018)のモデルを用いた。マイクロプラスチックの発生源は別府湾内の河口とし,発生量は河川流量に依存させた(工藤ら,2018)。なお,動態に与える波浪の影響,海岸での漂着―再漂流過程,また海底での再懸濁は考慮していない。
計算の結果,河川から発生させた総粒子数に対する湾内の堆積粒子数の比は,1993年が10%, 2004年は7%,そして2013年は15%となった。このことからマイクロプラスチック堆積フラックス偏差が極大となった期間はマイクロプラスチックが沈みやすい条件が整っていたものと推測された。各年の7月最終日におけるマイクロプラスチックの分布を図に示す。粒子の色は水深を示す。発表時には,沈みやすさに与えるマイクロプラスチック粒子の湾内滞留時間や湾内クロロフィルa濃度の影響について説明する。