日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] ガスハイドレートと地球環境・資源科学

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、青木 伸輔(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、座長:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、青木 伸輔(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

09:35 〜 09:50

[MIS18-03] 丹後半島北方表層型メタンハイドレート賦存域のポックマーク成因論

*浅田 美穂1児玉 匡史1山口 和雄1棚橋 学1横田 俊之1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:表層型メタンハイドレート、隠岐トラフ、丹後半島北方、反射法地震探査、ポックマーク

ポックマークは日本語では「あばた」と訳され、地形に用いる場合には窪地を指して用いられる。それは形状を表現するのみで成因を問わない。海洋地質学においては、流体排出があるフィールドでポックマークが観察される場合が多いことから、何か「流体排出に伴って形成された窪地」が連想されることが多い。ポックマークの分布を報告する文献では、排出される流体が地層の一部を流路に沿って持ち去りポックマークを形成すると解釈され、流体起源や流路についての議論が展開される場合が多い。表層型メタンハイドレート(MH)の賦存が知られている上越沖では、海底面に集積したMHが海底面付近の地層を乱し、かつMH自身の浮力のために海中に取り除かれ、窪地が形成されたと説明されている(松本2009)。
表層型MHは海底面から深さおよそ100 mまでに賦存するMHを指し、日本周辺では日本海沿岸域と北海道周辺海域にその兆候が得られている。産業技術総合研究所ではこれまでに、表層型MHの分布や産状など資源量把握に関する調査を実施し、生産技術開発や環境影響評価を含めた総合調査を開始した。現在は、詳細なデータが揃っている3つの海域(酒田沖、上越沖、丹後半島北方)を重点調査海域として、将来の海洋産出試験に必要な知見を得るフェーズにある。この枠組みの中で、表層型MHの形成に関与すると考えられる流体の挙動の理解を目的として、ポックマークが目立つ丹後半島北方において、これの成因を考える。
若狭湾や丹後半島の北方およそ100 km沖合にある調査海域は、陸棚より水深が大きく平坦面である縁辺台地から北にのびる、地形的高まりの北端部にあたる。高まりの西側は隠岐トラフとの境界で急崖が連なる。東側は若狭海盆へ繋がる緩斜面で、上端が馬蹄形を呈する緩やかな地滑り地形が認められる。船舶およびAUVを用いて取得した音響データと、高分解能三次元地震探査(HR3D)による海底面および海底下の構造から、この海域に高密度に分布するポックマークとその特徴が明らかになった。すり鉢状の窪地を形成しているポックマークの直径は数十〜500 m程度以上まで幅があり、高まりの上部では配列するように、東側緩斜面上では不規則に分布しているように見える。
ポックマークは、地形と海底下の構造では明瞭に認識できるが、海底面の後方散乱強度分布では認識出来ないことから、その殆どは海底面にメタンと海水の反応で生成される物質を伴っていない、すなわち現在の海底にメタンを排出していないと考えられる。新第三紀と第四紀の境界あたりに相当すると解釈されている不整合面(山本 1993)が、HR3D記録に認識できる。ポックマーク直下の構造を二次元断面で見ると、殆どの場合で側方によく連続する地層が下向きに撓んでいて、撓みの中心相当位置に地層の断裂が認識出来ない。ポックマーク直下の地層の撓みは、より下位へ継続して見られる。撓みの下底を認定すると、その多くが不整合面よりも上位にある。西側斜面上のポックマークは不整合面から海底面付近に達する高角断層に付随して分布するように見え、その構造の中に強振幅の反射面を伴うことがある。東側緩斜面上のポックマークは、高角断層に付随するタイプもあるが、高角断層を伴わず、より径が大きな撓みが、より広い範囲に分布するタイプが共存している。径が大きな撓みは、撓みの中心位置が浅部に向けて北東に移動する傾向にある。
東側緩斜面上には地滑り地形が認められることから、その地域を構成する堆積物の一部が高まりの外へ移動している可能性がある。同時に東側緩斜面には北東方への引張場が発生している可能性がある。ポックマーク直下に層構造の断続が見られないので、これらの成因は、従来流体の浸み出し場において議論されてきたような、流体排出の流路に沿う垂直方向の堆積物の持ち去りでも、充分な量のMHが集積し欠損したのでもない可能性がある。ポックマークが地質時代を通して形成されたなら、その位置が大きく移動していないことは、場所を変えずに変形を続ける性質があることを示す。この地域のポックマークの成因は、ごく緩やかで継続的な流体の浸み出し場が局地的に堆積物の成長を妨げたか、または地滑りの影響を受けて堆積物が側方へ移動し海底下で質量欠損をおこして関与している可能性がある。このエリアのポックマーク成因論を解明し、流体と堆積物の移動を理解することで、表層型MH賦存状況の把握と生産技術開発に貢献する。本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。