10:45 〜 11:00
[MIS19-01] 潮汐周期と同期した深海熱水噴出孔での放電現象と電気合成微生物生態系
★招待講演
キーワード:深海熱水噴出孔、発電、電気合成生態系
深海熱水噴出域では導電性の高い硫化鉱物を介した熱水と海水の酸化還元勾配起電力によって自発的な放電現象が起きている。この場合、熱水中の硫化水素と海水中の酸素がそれぞれ主な還元剤と酸化剤として機能していると考えられる。我々は深海熱水噴出孔に熱水と海水を燃料にする燃料電池を設置して現場の発電量を記録しながら、この電力を利用した微生物電気培養を試みた。設置してから12日後に燃料電池を回収し、内蔵された電流・電圧計の記録を確認した。設置開始4日後から徐々に電流と電圧が上昇しおよそ8日後に電圧が約0.6Vに達した。この値は熱水-海水間の電位差に概ね一致し、最大の電子駆動力が出力されていることを意味した。また、電圧・電流の降下が半日周期で観察され、そのタイミングは満潮時刻と概ね一致した。この海域では満潮時に潮流速度が最も鈍化することが報告されているため、潮流の鈍化によって燃料電池のカソードへの酸素の供給が低下したことが電圧・電流降下の原因であると考えられた。燃料電池のカソード表面の微生物群集組成を解析したところ、ある一種の細菌の優占が観察され、メタゲノム解析による代謝経路再構築から、本菌は電気をエネルギー源にして増殖する電気合成能力を有すると予想された。’Candidatus Thiomicrorhabdus electrophagus’と名付けられた本菌は、実験室での電気培養において電気合成的な条件下で実際に生育できることを示した。これらの結果は、深海熱水噴出域で発生している電気エネルギーに支えられた電気合成微生物生態系が噴出孔周辺に構築されていることを強く示唆しいてる。加えて、電力生産が潮汐周期による酸素供給速度の影響下にあることから、熱水-鉱物-微生物-酸素の電子の流れによって成立する電気合成微生物生態系によるバイオマス生産も潮汐周期の影響下にあると予想された。