日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 水惑星学

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

13:45 〜 14:00

[MIS20-01] 球状鉄コンクリーションのサイズ分布の起源

*城野 信一1、田村 美紗樹1 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)

キーワード:球状鉄コンクリーション、炭酸カルシウム、空間分布、サイズ分布

アメリカ・ユタ州のグランドステアケース・エスカランテ国定公園において,酸化鉄で表面が覆われた球状コンクリーションが発見される.同様のコンクリーションはモンゴル・ゴビ砂漠でも発見されている.また,火星のメリディア二平原においても「ブルーベリー」という名前で球状の鉄コンクリーションが発見されており,その形成プロセスの解明はこれらの地域の古環境に制約を与えることにつながる.Yoshida et al.(2018: Sci. Adv. 4, eaau0872 )において,炭酸カルシウムの球状コンクリーションが前駆体としてまず形成され,そこに鉄イオンを含んだ酸性の地下水が流れ込むことにより球状鉄コンクリーションが形成されたとするモデルが提案された.このモデルに基づくと,現在観察される球状鉄コンクリーションの空間分布とサイズ分布は炭酸カルシウムコンクリーションの形成時に決定されることになる.Yoshida et al.(2018)において炭酸カルシウムコンクリーションの形成プロセスはほとんど議論されていないため,球状鉄コンクリーションの空間分布とサイズ分布から形成環境を制約することを試みた.現地で撮影した画像を解析することにより,球状鉄コンクリーションのサイズ分布と最近接距離の分布を得た.これらのデータをもとに,球状炭酸カルシウムコンクリーションの形成シナリオを構築した.炭酸カルシウムの核形成速度から,直径数cmの炭酸カルシウムコンクリーションが直接形成されたとは考えにくい.炭酸カルシウムが過飽和となり最初に形成される沈殿物のサイズは現在発見されるものよりもはるかに小さく,数は多かったものと考えられる.一方で鉄コンクリーション間の間隔は鉄コンクリーションの直径の数倍にもなる.炭酸カルシウムの沈殿のみが一方的に進行したとすると,はじめに形成された沈殿物の狭い間隔はすぐにうまり,沈殿物はすべてつながってしまう.沈殿のみでは広い間隔を説明することはできず,溶解も必要であることになる.これらのことから,球状炭酸カルシウムコンクリーションは炭酸カルシウムの溶解と沈殿が繰り返されて形成されたことがわかる.そこで溶解と沈殿を繰り返すモデルの数値計算を行い,球状炭酸カルシウムコンクリーションの平均サイズと標準偏差がどのように進化するのかを求めた.その結果,平均サイズが増大するとともに標準偏差も増大し,天然に観察されるデータをよく説明することがわかった.また,直径数cmのコンクリーションを形成するためにはpHが5以下である必要があることがわかった.これらの結果から,球状コンクリーションが産出している路頭の画像が得られるだけで,その形成環境に一定の制約を与えることができると期待される.

図の説明:コンクリーション直径の標準偏差と平均直径の関係.Large:直径2cm以上 Small:直径1mm程度 Potter largeとPotter smallはPotter and Chan (2011: Geofluids 111, 184)より