日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 水惑星学

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

14:00 〜 14:15

[MIS20-02] 火星のヘマタイト・ゲーサイト問題:塩溶液中におけるフェリハイドライトから結晶性鉄酸化物への変質挙動

*深谷 創1福士 圭介2高橋 嘉夫3 (1.金沢大学、2.金沢大学 環日本海域環境研究センター、3.東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)


キーワード:火星、ヘマタイト、ゲーサイト

火星にはかつて液体の水が存在したことが、堆積物の分析から明らかになっている。堆積物には、太古火星での水―岩石反応で得られる鉄酸化物が認められている。水中に溶存したFe3+の加水分解で形成される一般的な非晶質鉄酸化物としてフェリハイドライトがあり、それを前駆体とした結晶性の最終生成物がヘマタイトとゲーサイトである。フェリハイドライトがヘマタイトとゲーサイトのどちらに転移するかは水質条件によって主に制御されており、pHが中性もしくは強酸性のときにヘマタイトが優勢となり、それ以外の酸性もしくはアルカリ性ではゲーサイトが優勢である(Schwertmann and Murad, 1983)。Fukushi et al., (2022)では、ゲールクレーターでの最後の湿潤イベントにおける水のpHを3-5と推定している。このpH条件では鉄酸化物としてゲーサイトが優勢であるはずだが、ゲールクレーターの堆積物からゲーサイトは見つかっていない。また、pHが中性で塩濃度(イオン強度)が高い水中ではヘマタイト形成が優勢になることが報告されている(Torrent and Guzman, 1982)。しかし、pHとイオン強度を共に制御した条件におけるフェリハイドライトの変質は研究されていないので、変質挙動を系統的に理解する必要がある。この理解は、火星に存在する堆積物中で、ヘマタイトと競争的に形成されるはずのゲーサイトが認められていない原因を明らかにするかもしれず、火星における水質を制約できることが期待される。本研究では、NaCl溶液とMgCl2溶液のpHとイオン強度を変化させて、フェリハイドライトの転移を粉末X線回折とX線吸収分光法によって調べた。
ヘマタイトは、pHが中性付近でイオン強度によらず優勢であった。酸性条件では、イオン強度が低いとゲーサイトが優勢であったが、イオン強度の増加とともにヘマタイトの割合が増加し、高いイオン強度でヘマタイトのみ形成された。これらの結果は、酸性条件でもイオン強度が高いためにゲーサイト形成が抑制されることを示唆しており、ゲールクレーターの堆積物にゲーサイトがないことを説明できるかもしれない。