日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 水惑星学

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

14:45 〜 15:00

[MIS20-05] 湿った砂のクレーター形成過程に対する含水率の効果とハビタブル天体への応用

*豊嶋 遥名1荒川 政彦1保井 みなみ1笹井 遥1長谷川 直2 (1.神戸大学大学院、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:ハビタブル天体、湿った砂、衝突クレーター、衝突実験、πスケーリング

現在の地球や過去の火星をはじめ,ハビタブル天体表面での衝突現象を理解する上で,液体の水を含む地表面における衝突現象の理解は重要である.火星表面のクレーターの形態学的かつ鉱物学的研究からは,ノアキアン期( > 3.7Ga)には少なくとも深さ7km以上の泥層が存在したと推測されており,表層では流体の存在が示唆されている[1].先行研究では,湿った砂のクレーター形成過程は乾燥砂とは異なり重力支配域で整理しきれないことが分かっている[2].さらに標的の含水率を変化させた低速度(~m/s)衝突実験では,弾丸の貫入深さが湿った砂の剪断降伏強度のべき乗で表せることが示されている[3].しかしながら,含水率がハビタブル天体でのクレーター形成過程に与える影響を明らかするには,原始ハビタブル惑星上の数km/sでの衝突実験のデータが不足している.そこで本研究では,含水率を変化させた砂標的に対する高速度クレーター形成実験を行い,湿った砂のクレーター形成過程に対する含水率の効果を評価した.
 試料は粒径500µmの石英砂に水を混合した含水石英砂標的で,含水率は質量含水率0-13wt.%で変化させた.衝突実験は神戸大学及び宇宙科学研究所の横型二段式軽ガス銃を使用し,直径2mmのアルミ球を速度2km/sまたは4km/sで衝突させた.標的は水平面から30˚傾斜させて設置し,火星表面を想定して標的内部の水が液体状態である三重点近傍条件下で実験を行った.なお,全ての実験は高速カメラで観察し,加えて宇宙科学研究所での実験は高速赤外線カメラによる温度観測も行った.
実験の結果,含水率の増加に伴い,クレーター深さは増大し,クレーター直径は減少した. しかし,含水率が~5wt.%を超えると,直径も深さもどちらもほぼ一定となった.特に直径の含水率依存性は,湿った砂の剪断降伏強度が含水率~5wt.%までは含水率とともに増大するが,5wt.%以上ではほぼ一定となるという先行研究の傾向で説明できる[3].即ち,湿った砂に形成されるクレーターのサイズは標的剪断強度に依存していると言える.そこでこの剪断降伏強度を用いてπスケール則[4]を適用すると,湿った砂のクレーターサイズは剪断降伏強度を用いた強度支配域のπスケール則で整理できることが分かった.
 エジェクタカーテン角度については,ほとんどの実験で斜面上側と下側で非対称であり,含水率に伴った変化は見られなかった.この非対称性は先行研究と整合的である[5].しかしながら速度4km/sにおいては,標的含水率が~5wt.%を超えるとこの非対称性は弱くなり,~9wt.%以上ではほぼ対称になった.この結果から,4km/sで発生する高い衝撃圧で弾丸自体の貫入が阻止された,もしくは弾丸が破壊されただけでなく,含水率の増加に伴う標的の剪断降伏強度の増大によって,衝突後の弾丸破片の潜り込みも阻止された可能性がある.

参考文献: [1] Sun & Milliken (2015) JGR-Planets 120, 2293-2332. [2] Schmidt & Housen (1987) Int J Imp Engin 5, 543-560. [3]Takita & Sumita (2013) Phys. Rev. E88, 022203. [4] Housen & Holsapple (2011) Icarus 211(1), 856-875. [5]Anderson et al. (2004) MAPS 39, 303-320.