16:00 〜 16:15
[MIS20-08] 氷塩混合物を用いた低温摩擦実験から考察する エウロパのプレート境界強度
木星の衛星であるエウロパでは、地球表層のプレート境界と類似した地形が観測されており、プレート運動による表面の更新が起きている可能性が示唆されている (e.g. Kattenhorn and Prockter, 2014) 。表層におけるプレート移動や沈み込みは、エウロパ表面と内部海の定常的な物質循環に大きく寄与する可能性があり、生命活動に重要な酸化還元反応を考察する上でも、そのテクトニクスの有無を明らかにすることは非常に重要である (e.g. Vance et al., 2016) 。プレートの沈み込みを考える上で一つの鍵となるのが、プレート境界の摩擦強度である。本研究では、エウロパのプレート境界における摩擦強度を評価することを目的に、氷と塩の混合物の低温摩擦実験とプレート境界に沿った温度構造を推定する数値計算を行った。
摩擦実験は広島大学設置の2軸摩擦試験機を用いて、低温高垂直応力下で一定のすべり速度 (T = –41 ~ –7 ℃, σn = 2.5-5 MPa, 3 μm/s) で行った。実験試料はH2O氷 (Ice-Ih) とMgCl2・6H2Oの混合物を作成し (MgCl2・6H2Oの体積比率は0, 25, 50, 100 vol.%) 、粒径を整え (45-75 μm) 、ステンレスブロックに挟み込み、ガウジ状にして実験に用いた。温度は、試料から2 mm離れた箇所に作成したステンレスブロックの穴に熱電対を差し込むことで測定した。実験中は剪断応力と垂直応力を10 Hzで計測し、定常状態に達したそれらの値から摩擦係数を算出した。次に、定常的なプレートの沈み込みを仮定した2次元熱伝導移流方程式によって、プレート境界付近の温度構造を模擬した数値計算を行った。プレートの初期温度勾配やプレートの厚みを仮定し (e.g. Ruiz and Tejero, 2003) 、様々な沈み込み速度 (0–4.8 cm/yr (e.g. Howell and Pappalardo, 2019)) でプレートを沈み込ませ、プレート境界の温度構造の変化を観察した。
本実験から得られたH2O氷の摩擦係数は、Zoet et al. (2013) やMcCarthy et al. (2017)の結果と整合的であった。加えて、摩擦係数は T/Tm > 0.85の高温で、相同温度(homologous temperature)の0.5乗に比例することが示された。H2O氷とMgCl2・6H2Oの混合物の摩擦係数は、H2O氷の摩擦係数よりも低下することが確認された。この要因として、H2OとMgCl2・6H2Oの共融混合物が、混合物試料の界面で部分的に融解することで、潤滑剤のような役割を果たしていることが考えられる。一方で、MgCl2・6H2Oの体積比率が 25, 50 vol.% の結果を比較すると、摩擦係数は混合比率に依存しなかった。H2O氷と混合物試料を用いた実験結果から、エウロパのプレート境界の摩擦強度を求めるための摩擦係数モデルを構築した。
本研究の実験から得られた氷と塩の摩擦係数モデルと、数値計算によって求められたプレート境界の温度構造の結果から、エウロパのプレート境界の摩擦強度を評価した。その結果、H2O氷のみの摩擦によるプレート境界強度は摩擦係数に換算すると0.66–0.82、H2O氷とMgCl2・6H2Oを仮定すると0.57–0.79と推察され、氷の摩擦に対する塩の融点降下の影響を示すことができた。しかし本結果から、定常的なプレートの沈み込みを駆動させるには、摩擦強度が高く、先行研究などで仮定されたものよりも大きな駆動力を必要とすることが示唆された (Howell and Pappalardo, 2019) 。エウロパにおけるプレート沈み込みの可能性を考察するためには、プレート境界強度を低下させる新たな効果を検討するか (例えば、より共融点が降下する塩) 、または破壊 (Stick-slip) を伴う断続的なプレートの沈み込みを考慮する必要があるかもしれない。
摩擦実験は広島大学設置の2軸摩擦試験機を用いて、低温高垂直応力下で一定のすべり速度 (T = –41 ~ –7 ℃, σn = 2.5-5 MPa, 3 μm/s) で行った。実験試料はH2O氷 (Ice-Ih) とMgCl2・6H2Oの混合物を作成し (MgCl2・6H2Oの体積比率は0, 25, 50, 100 vol.%) 、粒径を整え (45-75 μm) 、ステンレスブロックに挟み込み、ガウジ状にして実験に用いた。温度は、試料から2 mm離れた箇所に作成したステンレスブロックの穴に熱電対を差し込むことで測定した。実験中は剪断応力と垂直応力を10 Hzで計測し、定常状態に達したそれらの値から摩擦係数を算出した。次に、定常的なプレートの沈み込みを仮定した2次元熱伝導移流方程式によって、プレート境界付近の温度構造を模擬した数値計算を行った。プレートの初期温度勾配やプレートの厚みを仮定し (e.g. Ruiz and Tejero, 2003) 、様々な沈み込み速度 (0–4.8 cm/yr (e.g. Howell and Pappalardo, 2019)) でプレートを沈み込ませ、プレート境界の温度構造の変化を観察した。
本実験から得られたH2O氷の摩擦係数は、Zoet et al. (2013) やMcCarthy et al. (2017)の結果と整合的であった。加えて、摩擦係数は T/Tm > 0.85の高温で、相同温度(homologous temperature)の0.5乗に比例することが示された。H2O氷とMgCl2・6H2Oの混合物の摩擦係数は、H2O氷の摩擦係数よりも低下することが確認された。この要因として、H2OとMgCl2・6H2Oの共融混合物が、混合物試料の界面で部分的に融解することで、潤滑剤のような役割を果たしていることが考えられる。一方で、MgCl2・6H2Oの体積比率が 25, 50 vol.% の結果を比較すると、摩擦係数は混合比率に依存しなかった。H2O氷と混合物試料を用いた実験結果から、エウロパのプレート境界の摩擦強度を求めるための摩擦係数モデルを構築した。
本研究の実験から得られた氷と塩の摩擦係数モデルと、数値計算によって求められたプレート境界の温度構造の結果から、エウロパのプレート境界の摩擦強度を評価した。その結果、H2O氷のみの摩擦によるプレート境界強度は摩擦係数に換算すると0.66–0.82、H2O氷とMgCl2・6H2Oを仮定すると0.57–0.79と推察され、氷の摩擦に対する塩の融点降下の影響を示すことができた。しかし本結果から、定常的なプレートの沈み込みを駆動させるには、摩擦強度が高く、先行研究などで仮定されたものよりも大きな駆動力を必要とすることが示唆された (Howell and Pappalardo, 2019) 。エウロパにおけるプレート沈み込みの可能性を考察するためには、プレート境界強度を低下させる新たな効果を検討するか (例えば、より共融点が降下する塩) 、または破壊 (Stick-slip) を伴う断続的なプレートの沈み込みを考慮する必要があるかもしれない。