日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 水惑星学

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (21) (オンラインポスター)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS20-P02] デルタ地形から太古火星の海水準変動を復元する

*鬼頭 蓮1長谷川 精1武藤 鉄司2Trishit Ruj3、小松 吾郎4 (1.高知大学理工学部、2.長崎大学環境科学部、3.JAXA、4.ダヌンツィオ大学)

キーワード:火星、デルタ地形、水槽実験

現在の火星は表層に液体の水が存在しない,極寒で乾燥した環境である。しかし,約40~38億年前の太古の火星には,北半球の低地に海が広がっていたとされている。その証拠としてアウトフローチャネルといった河川地形が見られることに加え,地球と同じように河口で形成されるデルタ地形が見られる事が挙げられる。火星デルタ地形の先行研究は,流入・流出河川と接続するデルタがどこに分布するかを示した研究(Di Achille and Hynek, 2010, Nature Geoscience)など幾つか存在するが,デルタ地形の形状毎の分布についてはまだ余り検討がなされていない。特に,水槽実験の知見に基づく成因毎のデルタ地形分布の検討がなされていない。そこで本研究では,火星のデルタ地形を探査し,形状毎に区分した上でその分布を調べた。さらに,海水準変化や土砂流出量変化に基づくデルタ形状の変化を調べた水槽実験の結果と,観察した火星のデルタ地形を比較し,各形状のデルタ地形がどのような条件で形成されたかを考察して太古火星の海水準変動の解明を試みた。
 本研究では,太古火星の海岸線と考えられているdichotomy boundary周辺のデルタ地形を,ArcGISを用いてCTX,THEMIS,HiRISE画像を用いて探索した。デルタ地形は形状の違いに基づき,鳥趾状,扇状,ステップ状,ローブ状の5つに区分し,分布をプロットした。またCTX DEMより各デルタ地形の高度プロファイルを作成した。そして,観察したデルタ地形を水槽実験の結果と比較し,それぞれのデルタの成因について考察した。その結果, dichotomy boundaryに沿って広くデルタ地形が見られ,5つに区分したデルタ地形がやや異なる標高に分布することが確認できた。一方で, 80°W~140°Wのdichotomy boundary周辺部と,dichotomy boundaryより北側の領域ではデルタ地形が確認できなかった。前者はタルシス火山区に,後者はデルタ地形が形成されたヘスペリアン紀よりも新しいアマゾニアン紀の堆積物が分布する領域であり,大規模な海退に伴ってデルタが形成されていたとしても,その後の削剥や若い堆積物,溶岩流に覆われることで確認できないと考えられる。
次に水槽実験結果と比較したところ,ステップ状デルタは海水準上昇を模擬した実験結果(Muto and Steel, 2001, Geology)に類似しており,海進で形成された可能性が示唆された。さらにステップ状デルタのいくつかはデルタ末端付近にチャネルも見られ,海水準低下の実験結果(Muto and Steel, 2004, Geology)に類似していた。したがってデルタ起点付近が海進で形成された後に,一時的に堆積物供給が止まったうえで海退が起き、その後堆積物が供給される環境下で海退が起こって末端付近の地形が形成されたと解釈される。また,ローブ状デルタは海水準低下の実験結果(Muto et al., 2016, Sedimentology)に類似しており,海退で形成されたと考えられる。これは同一のデルタ地形を対象とした先行研究(Fawdon et al., 2018, EPSL)による層序解析に基づく解釈と整合的である。
さらに,海進期に形成されたと考えられるステップ状は標高の高い位置に分布し,一方で海退期に形成されたと考えられるローブ状および鳥趾状デルタは標高の低い位置に分布することが明らかになった。後者は火星の表層水が消失するヘスペリアン後期における大規模な海退プロセスを反映している可能性がある。今後は,より詳細な地形解析と水槽実験結果との比較を行い,スケーリング則を考慮して実験設定の水位変化と比べることで,太古火星の海水準変動の定量的な評価を試みる。