09:15 〜 09:30
[MIS21-02] 可視近赤外分光分析による月の珪長質な火山カルデラ領域の検討
キーワード:月の火山、コンプトン-ベルコビッチTh異常、可視近赤外分光、珪長質火山、リモートセンシング
月面における火山活動は月の海に代表される玄武岩質マグマがほとんどを占めるが、より珪長質な組成の火山体も稀に発見されている。その大半は月の海の周辺部に分布し、月の海玄武岩の結晶分化プロセスと密接に関連した火成作用による形成と考えられている(Glotch et al., 2019)。Compton–Belkovich Volcanic Complex (CBVC) は現在知られている中では唯一、月の海から離れた裏側高地領域(60.5°N – 99.5°E)に存在する珪長質火山である。CBVCは範囲約30 kmに渡るカルデラ地形や溶岩ドームを伴う火山複合体であり、これまでの研究からトリウムが局所的に濃集するCompton–Belkovich Thorium Anomalyと同じ領域に存在することが分かっている(e.g. Gillis et al., 2002; Jolliff et al., 2011)。唯一”Thホットスポット”の直上に存在する珪長質火山体であるCBVCは、月の内部ダイナミクスや形成進化を理解する上で重要な存在である。
これまでにCBVCの着陸探査は実施されておらず、組成や形成過程の研究は軌道上からリモートセンシングによって得られた情報のみで成り立っている。CBVCの組成についてはBhattacharya et al. (2013) が探査機Chandrayaan-1のMoon Mineralogy Mapper (M3) で観測した可視近赤外分光データより報告している。CBVCの大きな特徴としてカルデラ中央部ほど波長2.9umに顕著な吸収帯が存在することから、H2OあるいはOH基が揮発性成分として多量に供給されていたと考えられる。また、顕著な2um帯の吸収特徴が見られることから火口付近の火砕物にFe-Mgスピネルが存在する可能性を指摘した。
形態学的観点からの研究は、Chauhan et al. (2015) が分解能~50 cmのLunar Reconnaissance Orbiter NAC画像による解析を行っている。それによるとCBVCはEast dome, West dome, North domeの3ドームに囲まれたカルデラ構造であり、中央のカルデラやドームの頂部に火口と思われるくぼみや火砕物クラスター、より小規模な溶岩ドームなどが複数分布するとされる。
我々はCBVCの形成過程をより詳細に理解することを目標に、先行研究でなされたM3に加えて探査機SELENEのSpectral Profiler (SP) とMultiband Imager (MI) のデータを利用し、CBVCの地形的特徴と鉱物および水の分布について考察した。M3の3um吸収強度を評価するために波長1.49 umと2.50 umの反射率で結んだコンティナム直線で規格化したスペクトルから2.8–2.9 umの吸収深さを求めて、CBVCを含む地図上に着色した(図1)。Chauhan et al. (2015) の形態的特徴と比較すると、カルデラ外縁から中央部に移動するほどシグナルが強くなることが再確認された一方で、活動後期に形成されたと思われるmiddle dome, bison dome, turtle domeといった小規模な溶岩ドームでシグナルが弱化していることが判明した。これはカルデラ形成後に火口部が爆発的噴火を繰り返して揮発性成分を多く含んだ火砕物がカルデラ内を覆ったのち、CBVC活動末期に揮発性成分の抜けた珪長質溶岩がドームを形成した、という活動形態の変化を示している可能性がある。一方、2 um吸収帯強度の分布はカルデラ火口部を除いて地形特徴と相関がないことが確認された。1 um吸収帯付近でM3よりSN比の高いSPや空間分解能の高いMIのデータからは、2 um帯の吸収強度が大きい火口部で1 um帯の吸収強度も増大している。この結果から、火口部にはスピネルではなく輝石が分布していることが判明した。
図1. (a) CBVCおよび周辺のM3で得た750 nm反射率画像および (b) H2OないしOH基の存在を示唆する2.8–2.9 um吸収が強い場所を青く塗った図。活動後期に形成されたと考えられリ4つの小規模ドームのある位置の吸収が弱くなっていることがわかる。
これまでにCBVCの着陸探査は実施されておらず、組成や形成過程の研究は軌道上からリモートセンシングによって得られた情報のみで成り立っている。CBVCの組成についてはBhattacharya et al. (2013) が探査機Chandrayaan-1のMoon Mineralogy Mapper (M3) で観測した可視近赤外分光データより報告している。CBVCの大きな特徴としてカルデラ中央部ほど波長2.9umに顕著な吸収帯が存在することから、H2OあるいはOH基が揮発性成分として多量に供給されていたと考えられる。また、顕著な2um帯の吸収特徴が見られることから火口付近の火砕物にFe-Mgスピネルが存在する可能性を指摘した。
形態学的観点からの研究は、Chauhan et al. (2015) が分解能~50 cmのLunar Reconnaissance Orbiter NAC画像による解析を行っている。それによるとCBVCはEast dome, West dome, North domeの3ドームに囲まれたカルデラ構造であり、中央のカルデラやドームの頂部に火口と思われるくぼみや火砕物クラスター、より小規模な溶岩ドームなどが複数分布するとされる。
我々はCBVCの形成過程をより詳細に理解することを目標に、先行研究でなされたM3に加えて探査機SELENEのSpectral Profiler (SP) とMultiband Imager (MI) のデータを利用し、CBVCの地形的特徴と鉱物および水の分布について考察した。M3の3um吸収強度を評価するために波長1.49 umと2.50 umの反射率で結んだコンティナム直線で規格化したスペクトルから2.8–2.9 umの吸収深さを求めて、CBVCを含む地図上に着色した(図1)。Chauhan et al. (2015) の形態的特徴と比較すると、カルデラ外縁から中央部に移動するほどシグナルが強くなることが再確認された一方で、活動後期に形成されたと思われるmiddle dome, bison dome, turtle domeといった小規模な溶岩ドームでシグナルが弱化していることが判明した。これはカルデラ形成後に火口部が爆発的噴火を繰り返して揮発性成分を多く含んだ火砕物がカルデラ内を覆ったのち、CBVC活動末期に揮発性成分の抜けた珪長質溶岩がドームを形成した、という活動形態の変化を示している可能性がある。一方、2 um吸収帯強度の分布はカルデラ火口部を除いて地形特徴と相関がないことが確認された。1 um吸収帯付近でM3よりSN比の高いSPや空間分解能の高いMIのデータからは、2 um帯の吸収強度が大きい火口部で1 um帯の吸収強度も増大している。この結果から、火口部にはスピネルではなく輝石が分布していることが判明した。
図1. (a) CBVCおよび周辺のM3で得た750 nm反射率画像および (b) H2OないしOH基の存在を示唆する2.8–2.9 um吸収が強い場所を青く塗った図。活動後期に形成されたと考えられリ4つの小規模ドームのある位置の吸収が弱くなっていることがわかる。