日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 惑星火山学

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

09:30 〜 09:45

[MIS21-03] マグマだまり収縮によるOlympus Calderaの陥没モデルの提唱とその検証実験

*中村 茉由子1,2辻 智大1 (1.山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野、2.アジア航測株式会社)

キーワード:火星、カルデラ、火山

【はじめに】Olympus Calderaは火星Olympus Monsの山頂付近に位置する径60×80 kmの巨大な複合カルデラである.このカルデラは,6つのカルデラが重なり合って形成している(Mouginis-Mark,1981)と考えられており,各カルデラが明瞭なカルデラ壁とカルデラ床を保持している.Olympus Calderaの地形的観察はCarr(1973)をはじめ多数の研究で行われてきたが,複合カルデラの形成理解については検討されてこなかった.Olympus calderaのカルデラ縁の座標情報を用いて近似円解析を行うと,7つのカルデラ地形を定量的に再現することができ,その位置関係からはOlympus Calderaの形成履歴が検討できる.本研究はOlympus Caldera形成の発達史を検討することを目的として,7つのカルデラを形成するにあたる親子型陥没モデルの提唱とその検証実験を行った.また,親子型陥没モデルの陥没を引き起こしたマグマと山体斜面の溶岩流の関係性を検討するためにE-W方向の斜面で溶岩流地形を判読した.

【陥没モデルの課題】陥没モデルの妥当性を考慮するためには以下の課題を検討する必要がある.①マグマだまりと環状断層の構造を決定するために地下への環状断層の発達の確認,②収縮した親マグマだまりへの新規マグマの流入 の確認,③後続カルデラのマグマだまり形成場となる鉛直方向の弱面へのマグマの流入と上昇の確認であ る.これらの課題に対して,①は片栗粉と風船を用いた陥没実験,②・③はゼラチンと油を用いた貫入実験で 確認を行う.

【実験】陥没実験の結果,片栗粉の表面は風船直上で円形に陥没した.陥没の初期には片栗粉の表面をブ ロックの形状に保持されたままピストン状に陥没した.後期には風船が完全に萎むと片栗粉のブロックは崩壊 へと遷移した.陥没に伴った環状断層はほぼ鉛直で内部まで連続的に発達していた.陥没実験は非爆発的な噴 火による陥没を検証でき,初期の部分はOlympus Calderaで見られる地形を再現できた. そのため,貫入実験には 鉛直方向の環状割れ目を条件に与えた.貫入実験では,ゼラチン濃度の異なる3パターンのゼラチン層を重 ね,上層に油環状割れ目がある際は,油が上昇した.これは,実際の火山体中の鉛直方向の割れ目にマグマが 貫入する例と調和的な結果を示した.また,上層ほどゼラチン濃度が濃い条件時に層境界で油の横移動と上層 の隆起が生じた.これは,マグマが水平方向の弱面に流入するシルに相応する結果である.よって,親子型陥 没モデルの②・③の妥当性を確認できた.

【斜面溶岩流と陥没の関係】非爆発的噴火によるカルデラでは,一般的にマグマはドレインバックによるマ グマだまりの収縮又はマグマの側方移動によると考えられている.もし,マグマが側方移動していた場合,マ グマが山体の表層へ達している可能性がある.Olympus Monsには玄武岩質楯状火山に一般的な側方噴火で形成されるリフト帯は発見されていない(Bleacher et al.,2007)が,山腹を起点に流出する溶岩チューブがある.溶岩流判別の結果,溶岩チューブの流出 地点の標高は5,000~20,000 mの間で,東側には見られない.このことから,山頂火口からの流出ではなく,側方斜面からの流出が示唆される.Olympus Calderaの分布が西側に偏っていることと溶岩チューブの分布が北から西を経た南側に見られる事から,山腹から流出する溶岩チューブは,カルデラ陥没時にマグマだまりからマグマが側方移動して表層へと流出した可能性がある.