日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 惑星火山学

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (20) (オンラインポスター)

コンビーナ:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS21-P04] 月・縦孔の露頭断面の溶岩層厚さによる溶岩流動挙動の推定

*本多 力1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:月縦孔、降伏値、溶岩層、溶岩温度

[はじめに]
先の報告(本多力(2022):MIS25-P01月・縦孔露頭の溶岩層厚さ(溶岩流停止厚さ)による溶岩降伏値と溶岩流停止温度の推定,日本地球惑星科学連合2022年大会)[1]では,マリウス丘リルA内の縦孔(図1,図2)で推定されている露頭溶岩層断面平均厚さ(溶岩流停止厚さhB:600cm)と傾斜角度:0.31度から溶岩降伏値(1310dyne/cm2(=131Pa)を求め,妥当と考えられる月の溶岩の降伏値の温度依存性を仮定して,月の溶岩流停止時の溶岩流温度の推定(950℃~1075℃)を試みた。ここでは、溶岩流の推定温度:950℃~1075℃においてリルAを流れた溶岩流の流動厚さを変化させ流速等に関してのcase studyを試み,リルAを流れたと考えられる溶岩流の挙動を検討した。またさらに、溶岩流の温度がさらに高い1200℃の場合についてもcase studyを試みた。

[リルAを流れた溶岩流の流動厚さのcase study:レイノルズ数,ビンガム数,ヘドストロム数の推定]
リルAの溶岩流の流速やその流体力学特性を把握するために,流体の挙動を特徴づける流体力学的無次元数:レイノルズ数: Re=ρuH/ηB,ビンガム数:B=fBH/ηBu, ヘドストロム数: He=Re・B=ρfBH2B2についての推定を試みた.溶岩降伏値fBは1310dyne/cm2,傾斜角度は0.31度,溶岩流停止厚さhBは600cmとし,温度θは950℃, 1075℃に対してApollo-12採取溶岩の粘性係数[2]から作成した温度依存式Log10ηB = 6.2651-0.003635θから推定した粘性係数649 poise, 228 poiseを用いた.溶岩の流動厚さHを600cmから1000cmに変化させたときの結果を表1,表2に示す. 溶岩が実際に流れているときの流動厚さは不明だが600cmの時は流速は0となり流れは停止する.流動厚さが1000cmの時は600cm厚さ分がプラグ流となる. 950℃とするとヘドストロム数は103のオーダーで、レイノルズ数は低い値を示しているので流れは層流である.1075℃とすると高いレイノルズ数を示しているが104のオーダー高いヘドストロム数を示しているので流れはやはり層流である(図3).

[溶岩流温度が1200℃の場合のcase study:レイノルズ数,ビンガム数,ヘドストロム数の推定]
Apollo-12の粘性係数から1200℃では100poiseとし、降伏値としては三原山1951年溶岩流の値[3]の十分の一と百分の一の値,100 dyne/cm2 ,10 dyne/cm2 を用いた。表3,表4にその結果を示す。想定した流動厚さではすべて流れは乱流状態にある(図3)。月面にマグマが上昇し噴出する温度は高い温度(>1200℃)[4]が提案されているが、高温で高い噴出率を持つ長距離の溶岩流では冷却により乱流から層流に遷移しその後溶岩流は停止すると考えられる。

[おわりに]
月面では今回検討したような遷移で溶岩が流れるのかどうか,溶岩が実際に流れている時のさらなる詳細な温度制約と流動厚さの同定は今後の課題である. 特に溶岩流が流れている時の流動厚さの痕跡を見つけることが重要である.

[参考文献]
[1] 本多力(2022): 地球惑星科学連合大会JPGU(2022),MIS25-P01
[2] C.Meyer(2003):Mare Basalt Volcanism,NASA Lunar Petrographic Educational Thin Section Set, 15
[3] 石原和弘,他(1988):火山,第 2 集,第 33 巻,伊豆大島噴火特集号,S64
[4] M.A.Wieczorek et al(2001): Earth and Planetary Science Letters 185 (2001) 71-83