日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 歴史学×地球惑星科学

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)、座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)

10:00 〜 10:30

[MIS22-04] 幾千もの村を見出す方法:
平安期文献『和名類聚抄』の記載郷名の比定地プロットを用いた〈千年村〉抽出方法と地域持続へ向けての試み

★招待講演

*中谷 礼仁1 (1.早稲田大学 理工学術院)

キーワード:古代地名、長期持続地域、地域アセスメント

本発表では、千年単位を基準として自然的社会的災害・変化を乗り越えて、生産と生活が持続的に営まれてきた地域を〈千年村〉と名付け、その候補地を把握するための方法論を提示する。それは、平安期の文献「和名類聚抄」に記載された郷名を現在地に比定した既往研究を基に、具体地として空間的にプロットすることで、客観的かつ網羅的な把握を可能にしたものである。その〈千年村〉候補地の総量は約2000箇所に及ぶ。この量はすぐれて長期的に持続した可能性のある地域の相応数のデータベースである。それら成果を用い広域的な分析を行い、その立地傾向を見出した。さらに現在の比定地域の将来の持続に向けた認証作業を行なっている。
・〈千年村〉発見の作業仮説と地名
環境要因的、社会的に想定される様々な圧力を受けつつも、長期にわたり一貫した歴史的性格を保持しつづけてきた地域には、すでに経済的基盤、生産性や防災性が考慮された、持続的なシステムが育まれてきたという仮説が成り立つ。本稿では、このような特質を保持し、千年単位を基準として持続する地域を〈千年村〉と名付けた。その〈千年村〉の量を客観的に方法として示すために、「地名」を一つのキーワードとし、平安期文献『和名類聚抄』に記載された地名を現在地名に比定した既往の地名研究に着目した。
・平安期文献記載の郷名研究成果のプロット
そのために現在地名に関する最も網羅的な書物の一つである『角川日本地名辞典』の記述を出典とし『和名類聚抄』記載郷名の現在地比定から、具体的な現在の場所にプロット可能な地名を精選する方法とその意義を述べた。つまり、長期持続地域として検討可能な調査単位としての「大字」を設定し、『角川日本地名辞典』における比定精度の分類から大字領域に比定可能な地名を〈千年村〉候補地として抽出した。その結果、『和名類聚抄』記載の4200郷中、1977地名が得られた。
それら約2000の〈千年村〉候補地について、地図上へのプロット作業を行い、その立地を可視化した。その作業によって、多様な地図を用いた多層的な分析が可能になり、〈千年村〉候補地の立地一般について包括的に考えうる成果を得た。ここでは、地形と水系に着目し、その立地の一般傾向として、多様な地形・地質、水源といった生産と生活のための環境基盤を有し、それに適した水田・畑・里山・居住地などの土地利用を行い得る地域であることを見出した。
・〈千年村〉のさらなる持続へむけて
千年村プロジェクトは、この調査結果を用いて、国内の長期持続の面から優れた環境を具備した地域の発見と顕彰を行なっている。実際の方法は上記の〈千年村〉候補地をデータベースに、その地域を実際に訪問し、その地域の現状や歴史的出来事を確認する。この確認作業によって同候補地は認証された〈千年村〉となる。近年では、地域からの確認申請に応じて認証を行う作業に転じ、地域からの自発性を重んじた認証組織として活動している。