日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 歴史学×地球惑星科学

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)、座長:芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)

10:45 〜 11:00

[MIS22-05] 三河地震を事例とした歴史地震の再現手法の検討について

*中井 春香1阪本 真由美1 (1.兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科)


キーワード:歴史地震、三河地震、死者数、再現手法

1.はじめに
地震活動の間隔の長いものは1000年以上になるなど地震発生の頻度は低く、過去に地震が発生したという記録が残っているものについても、どのような被害であったのかは明確でない。また、被害の様相を再現するにあたっても利用可能なデータは限られている。そこで、本研究では、限られたデータから地震による被害の様相を再現するとはどういったことなのか、またその課題と現代の防災、未来の防災へどのように活かすことができるのかについて、1945年三河地震を事例に検討する。
2.1945年三河地震の震度分布の再考
まず始めに、1945年1月13日三河地震の広域震度分布の再評価とその特徴の整理を実施した。1945年1月13日に発生した三河地震の特徴としては、東南海地震の約1か月後に発生した地震であること、戦時中であったこと、そして家屋喪失数に対して死者数が多い地震であることがあげられる。そこで飯田(1985)のデータにおける三河地震の被害として一般的に用いられている数値を調査した結果、調査データの最大値の総括であり、市町村単位とする内訳に戻れないことが判明した。このため、1945年1月14日の愛知県警備課による統一的なデータも用いながら、各市町村のデータを算出し震度分布図をGISを用いて作成した。その結果、沖積低地である岡崎平野や矢作川流域では被害が大きく、幡豆山地などの丘陵地に属する地域は被害が小さかった。また、地盤による震度や被害の影響は、東南海地震と類似していたことがわかった。一方、断層のごく近傍では、全潰家屋の割に死者数が特に多く発生している傾向もみられ、断層近傍特有の被害にも注目する必要があるものと考えられた。 
3.1945年三河地震における全潰家屋数と死者数の関係
次に、1945年1月13日三河地震における全潰家屋数と死者数の関係について考察を行った。三河地震は、全潰家屋数に対して死者数が多い地震である。その要因を明らかにするために, 上述した特徴に着目し、要因を定量化するため全潰家屋数を死者数で割ったNk値を用いて検討した。東南海地震が1か月前に発生していたことや発生時刻が真冬の夜中であり迅速な避難をより困難にしたこともその傾向を助長した可能性があることがわかった。また、飯田の調査によると,分かっている学童の死者数は99人である。さらに訓導、寮母、その家族等を含めた疎開関係者の死者数12人を加えると111人となる。学童疎開による死者数が含まれる飯田データの死者数2,137人から、学童疎開関連死者数の111人を引いてNk値を計算すると、Nk=3.5となる。つまり学童疎開関連死者数が影響し、Nk値を0.4から0.5程度下げていたことが推察された。
4.考察
本稿では、三河地震を事例に、地震の被害を再考するとはどういったことなのかについて検討を行った。その結果、地震発生時に調査された自治体や警備課、気象庁など様々な報告について時系列で整理し、被害の様相について75年を経て再整理をすることで、市町村ごとの震度分布の再考や、戦時中という時代背景の中で、学童疎開関連死者数の資料による違いなどを再発見することができた。このことは、過去の地震について歴史地震としてデータをそのまま利用するのではなく、時間を経て再度俯瞰的、網羅的に整理することの重要性を示している。
被害の様相を再現するとは具体的に何を意味するのかについては、忘れられかけていた震災や地震に関する様々な事柄を復元し、時には再発見し、その過程で誤った伝承を正していくことであり、震災を体験した人々の言葉や、残していただいたさまざまな記録や報告、そこから導かれる地震の被害や復興の教訓を、再整理し現代の人々へ伝えていくことである。三河地震の人的被害においても、震災後75年を経て多くの疑問や誤解があることについては、それぞれの資料の統計の比較や、被害の様相、時系列での推移など、災害調査当時には見えていなかった真実や誤認が存在している可能性があること、そして過去の地震として報告書をそのまま利用するだけではなく、横断的に複数の公的文書を再度調べ直すことの重要性を語っている。再整理の重要性を理解した上で、被害の全容を明らかにするため、歴史地震を再考、再現していくことで、より有用なデータとして未来へ残していくことが可能となる。
■参考文献(1)飯田汲事:昭和20年1月13日三河地震の震害と震度分布、飯田汲事教授論文選集、1985年、pp.571-668.
(2)武村雅之:未曾有の大災害と地震学―関東大震災-,古今書院,2009年,pp.209.